日本には、古くから続く老舗が多いことが知られています。ひとくちに老舗と言っても、その存続年数は数世紀から100年以下までさまざまです。
老舗という言葉ひとつで、信用や技術力、ブランド、伝統などはっきりとは伝えにくい多くのことを表しています。
和菓子の老舗としては、西暦1000年に創業したあぶり餅を提供する京都の老舗や室町時代後期の京都で創業し羊羹の製造販売で広く知られた老舗、1805年に下町情緒が色濃く残る江戸東京で創業したくず餅の老舗などがあります。 悠久の歴史と受け継がれた伝統に裏打ちされた老舗の和菓子を、この機会に味わってみてはいかがでしょうか。
老舗とは
日本には、古くから続く老舗が多いことが知られています。最古の老舗とされるのが、飛鳥時代に聖徳太子の寺院建立にも携わった金剛組です。創業は578年です。ひとくちに老舗と言っても、その存続年数は数世紀から100年以下までさまざまです。
老舗と書いて、「しにせ」と読むのは特殊な読み方で、本来の読み方通り「ろうほ」と読んでも誤読ではありません。
老舗を名乗るための明確な基準は特にありませんが、東京商工リサーチでは創業30年以上を老舗、東都のれん会では創業から100年以上が経過し、3代以上にわたって継続している店舗を老舗と定義しています。
起業の存続率としては、創業3年で65%、創業5年で15%、創業10年で6.5%、創業20年で0.29%、創業30年で0.025%程度です。
世界的に見て創業200年を越える老舗は、アメリカで14社、オランダで200社、ドイツで800社、インド3社、台湾7社、中国9社、韓国0社、日本はなんと3,000社です。
老舗という言葉ひとつで、信用や技術力、ブランド、伝統などはっきりとは伝えにくい多くのことを表しています。
和菓子の老舗
あぶり餅を提供する京都の老舗
京都府京都市北区の今宮神社の旧参道にあり、あぶり餅だけを提供している和菓子店があります。創業は平安時代中期となる西暦1000年で、2020年現在、飲食店としては日本最古の老舗となります。
今宮神社は、994年に悪疫退散の祈願をしたのが始まりで、祈願には竹が使われ、餅が供えられていました。1000年に初代が、これを参拝者にふるまったことがはじまりと言われています。同店が提供しているあぶり餅は、一口大の餅を竹串に刺してきな粉をまぶして店頭で焼きます。焼き色がついたら、皿にのせほんのり甘い白味噌のタレを垂らします。
天皇にお供して東京に進出した羊羹の老舗
室町時代後期の京都で創業し、羊羹の製造販売で広く知られています。後陽成天皇の1586〜1611年の在位期間には、御所の御用を勤めています。1869年の東京遷都にともない、天皇にお供して、京都の店はそのままに東京にも進出し、現在に至ります。
下町情緒が色濃く残る江戸東京で創業したくず餅の老舗
ときは十一代将軍徳川家斉の頃、1805年にくず餅の老舗は創業致しました。初代の出身地は、千葉県北部となる下総国で、当時は良質な小麦の産地でした。初代は、寺社が梅や藤の季節に参拝客でにぎわうのを見て上京し、湯で練った小麦でんぷんをせいろで蒸し、黒蜜きな粉をかけて餅をつくり上げました。それがまたたく間に参拝客の垂涎の的となり、いつしかくず餅と名づけられ、江戸の名物のひとつに数えられる程の評判になりました。
このくず餅は、明治初頭に出たかわら版の大江戸風流くらべにおいて、江戸甘いもの屋番付に横綱として位置付けられ、名声を不動のものとしました。
創業当時の面影を残す店舗には、芥川龍之介をはじめ永井荷風、吉川英治などの文化人もしばしば足を運び、くず餅を堪能されていました。
老舗の200余年の歴史的背景には、さまざまな出来事がありました。 関東大震災や第二次世界大戦を乗り越え、奇跡的に発酵でんぷんだけがその被害を免れることができました。江戸時代から代々受け継がれてきたこの発酵製法こそが、唯一無二となるくず餅の製法です。
くず餅の品質を支える重要な要素は、お餅の適度なやわらかさとしなやかな歯ざわりです。それを引き出すうえで欠かせないのが、ラクトバチルスという乳酸菌です。老舗では、厳選した小麦粉のでんぷんを15カ月間(450日間)、乳酸による発酵でじっくりと熟成させます。小麦でんぷんの発酵槽は、杉や檜を使用しており、その呼吸作用などから乳酸菌の働きがより活発になり、最良の小麦でんぷんをつくり上げます。こうしてでき上がった小麦でんぷんは、澄んだ乳白色となり、ほのかにヨーグルトのような香りがします。また、老舗のくず餅の原材料である小麦でんぷんは、小麦粉からグルテンを取り除く分離行程を経たものを発酵させています。そのため、小麦粉を原材料としながらも、グルテン含有率は、計測限界値以下の3ppm未満となっています。なお、関東のくず餅は、葛を原材料とする関西のくず餅とは異なり、小麦でんぷんを原材料としています。
きな粉は、厳選された大豆を、強めに焙煎し、粗めに挽きます。大豆は栄養の宝庫といわれ、たんぱく質や食物繊維、ビタミン類を多く含む上、特にサポニンやレシチン、イソフラボンといった成分が注目を集めています。サポニンは、体内で過酸化脂質の発生を防ぎ、活性酸素を除去する働きがあります。レシチンは、体脂肪を燃焼させコレステロールを低下させる働きと脳の神経伝達物質となるアセチルコリンをつくる働きがあります。イソフラボンは、更年期障害の緩和や骨粗しょう症の予防機能を有していることが、報告されています。
黒糖蜜は、沖縄産の黒糖をベースに数種類の糖を独自にブレンドした老舗秘伝の味です。黒糖蜜は、サトウキビのしぼり汁を煮詰めたもので、カルシウムやカリウムなどのミネラルをはじめ、ビタミンを豊富に含んでいます。
くず餅を美味しく、そして安心して食べてもらえるように老舗では、職人技による五感を駆使した伝統製法と原材料の受け入れから出荷までの各工程において、品質マネジメントシステムの国際規格となるISO9001:2015を取得し、入念な品質管理を行っています。
また、老舗では、創業以来受け継いでいる考え方を従業員のひとりひとりに共有してもらうため、人材育成の環境整備に力を注いでいます。老舗の理念に従業員が共感していること、給与の明確かつ公平な評価基準を設けること、社内を活性化させるアンケートを行うこと、中長期計画をパートの方も含めた従業員に浸透させること、人は感情で動くことからイベントなど仕事から離れワクワクすることを行うことなどです。つまり、くず餅を食べてくれた人に感動してもらうため、共に働く従業員のエンゲージメント、換言すれば老舗に対する愛着心や思い入れを高めることに心血を注いでいます。
こうしてできあがったくず餅は、でき立てを自然のまま食べてもらいたいということから、消費期限はわずか2日間です。製造に450日間かけて、消費期限は2日間というこの刹那の幸福を、200年経った今も老舗は大切にしています。
まとめ
日本には、古くから続く老舗が多いことが知られています。ひとくちに老舗と言っても、その存続年数は数世紀から100年以下までさまざまです。
老舗を名乗るための明確な基準は特にありませんが、東京商工リサーチでは創業30年以上を老舗、東都のれん会では創業から100年以上が経過し、3代以上にわたって継続している店舗を老舗と定義しています。
老舗という言葉ひとつで、信用や技術力、ブランド、伝統などはっきりとは伝えにくい多くのことを表しています。
和菓子の老舗としては、西暦1000年に創業したあぶり餅を提供する京都の老舗や室町時代後期の京都で創業し羊羹の製造販売で広く知られた老舗、1805年に下町情緒が色濃く残る江戸東京で創業したくず餅の老舗などがあります。
悠久の歴史と受け継がれた伝統に裏打ちされた老舗の和菓子を、この機会に味わってみてはいかがでしょうか。