遠赤外線とは
太陽から地球には多くの光が届いています。虹の七色からも分かるように、可視域の光には波長の長い赤から、短い紫までが含まれています。このほかにも目には見えませんが、赤より波長の長い赤外線、紫より短い波長の紫外線も同時に届いています。
表面の温度が約6,000℃にもなる太陽は、地球に赤外線や可視光線、紫外線の形でエネルギーを運んでいます。
紫外線は、日焼けなどをもたらしますが、赤外線は物質をあたためる作用があります。遠赤外線は赤外線の中でもさらに波長の長い領域を指し、波長3~1,000µmまでとなります。加熱などで広く使用されているのは、3~30µmの波長域です。遠赤外線は、金属以外のものによく吸収されるため、多くのものを効率的に加熱する働きがあります。
太陽光に含まれる赤外線は、3µmより波長の短い近赤外線が主体で、遠赤外線はそれ程多くはありません。そこで遠赤外線を加熱などに使用する場合は、遠赤外ヒータを用いて人工的に遠赤外線を多く放出させます。近赤外線を使用するには近赤外ランプを、紫外線を使用するには紫外線ランプを、可視光線を使用するには、電灯や蛍光灯、LEDを用います。
空間を隔てていても、エネルギーや信号が伝わることをさまざまな場面で、日常的に利用しています。ラジオやテレビの電波、スマートフォン、電子レンジは日常の生活になくてはならないものとなり、空や海の旅行にはレーダーが不可欠です。健康診断でもX線検査を受けています。これらはすべて電磁波ですが、可視光線、赤外線、紫外線もその仲間であり、そのすべてが光の速さで空間を伝わります。
このように電磁波にはさまざまな種類があり、その特性もさまざまですが、その相違は、波長域が違うことに依存しています。波長域が異なることにより、電磁波としての性質が異なり、電波、赤外線、可視光線などに分かれます。
遠赤外線の特性
遠赤外線は金属に当たると反射されますが、それ以外のプラスチックスや塗料、繊維、木材、ゴム、食べ物、セラミックス、水などでは、非常によく吸収されます。すなわち、遠赤外遠赤外線をよく放射する物質は、遠赤外線をよく吸収する物質です。
金属を除くほとんどの物質は、遠赤外線をよく吸収します。遠赤外線をよく吸収する物質は、水や樹脂、ゴム、塗料、木材、繊維、紙、食品、ガラス、セラミックスです。このうちセラミックスは、一般的に耐熱性があるので、セラミックスを加熱して表面温度を高くすれば、そこから遠赤外線が多く放射されます。従って、遠赤外線ヒータには、通常人工的に成分を調製したセラミックスが使われています。域の電磁波エネルギーは熱エネルギーに変り、物質をあたためることになります。
物質は、その種類に応じてそれぞれ決まった構造、すなわち原子のつながり方を持っています。このような原子の全体あるいは部分には、特に起きやすい振動のタイプがいくつかあり、それらはその物質の構造で決まっています。これをその物質の固有振動と言います。各固有振動はそれぞれ決まった振動数で振動を行います。
ほとんどの物質の固有振動数は、波長に換算すると3~30µmに相当します。これはちょうど遠赤外放射の波長です。このため多くの物質に遠赤外線が当たると、その物質を構成している原子のつながりの振動が促されます。この時、遠赤外線の電磁波エネルギーは、物質に吸収され、物質の振動エネルギーに変わることになります。
遠赤外線が当たった多くの物質で生じる振動は、微小な固有振動に由来するもので、これは熱振動に相当します。熱振動が活発になるということで、同時に物質の温度も上昇します。従って遠赤外放射が吸収されれば、すぐその部分の温度上昇をもたらします。
遠赤外線の電磁波エネルギーを加熱や乾燥に用いると、その特有の優れた熱伝達特性から、さまざまなメリットが期待できます。
熱に弱い物質の乾燥などの場合、熱風方式と比べて大幅な時間短縮が期待できます。これにより生産性の向上が図れ、設備の連続化が可能となり、工程の自動化、省力化に寄与します。またエネルギー使用量も低減されます。
熱風加熱と異なり、加熱したい物質の表面温度が高くなり過ぎないうちに、必要なエネルギーを投入できるので、物体深部温度上昇が速く、より均一な仕上がりが可能になります。
熱風装置では、熱風の入口と出口で、また風の流れの制御が難しいことから、温度差が生じることが避けられませんが、遠赤外加熱装置ではヒータの適切な配置により、加熱装置全体にわたって均一な加熱処理が可能です。均一な加熱という優れた特性によって、遠赤外線による加熱は、食品の風味の劣化を防ぎやすく、歩留まり向上のほか、味や香りの保持が追求できます。
人が遠赤外線を受けて暖かいと感じるのは、先ず衣服の温度が上がり、身体からの放熱が減ることがあ げられます。衣類に覆われていない肌の部分では、遠赤外線が皮膚表面から深さ0.2mm程度までの間で吸収され、人体の皮膚層を構成する各種分子の熱振動が活発になります。体には血流があり、体熱の移動、平均化が生じますが、照射部分の流入エネルギー増加と体からの放熱減少により、全体としてあたたかさがもたらされます。
遠赤外線の食品産業での応用
遠赤外線のエネルギーは、金属以外のほとんどの物質において、表面から数百ミクロンまでの間でほとんど吸収されるので、それ以上浸透しません。物質の表面層でエネルギーのほとんどが吸収される遠赤外線は、表面から内部への熱流が高いレベルで供給され、しかもそのレベルが加熱を続けている間、ほとんど低下することがありません。このため遠赤外加熱では、物体深部の昇温が熱風加熱などに比べ、格段に速くなります。ちなみに熱風加熱などの熱源との接触による加熱では、加熱が進むと物体の表面温度が上がり、熱源との温度差がなくなってくるので、熱流はどんどん低下してしまいます。つまり、表面温度はすぐに上がりますが、内部温度の上昇は非常に遅く、その温度差は大きくなります。遠赤外線加熱は正反対で、より均一な加熱ができます。
食品産業でも、遠赤外線加熱の優れた効果を活用しています。一例としては、海苔や穀類、茶、野菜、果物、加工食品の乾燥、魚介類の干物、パンやクッキー、米菓の焼成、焼き芋、焼き栗、ちくわや蒲鉾などの焼上げ、茶の焙煎や火入れ、コーヒー豆やナッツ、ゴマなどの焙煎、調理食品の保温、冷凍食品等の解凍などです。
食品は、調理法や調理時の熱の加え方により、全体の食感や味、香りも変わります。これは、熱の伝わり方が、調理方法や火加減などで、食材にとってちょうど良い場合もあれば、望ましくない場合もあるからです。遠赤外線では熱源と食品が直接触れることがないため、表面の過熱が避けられ、食品深部の昇温に必要なだけのエネルギーを、比較的短時間のうちに表面から与えることができます。このため均一加熱性に優れ、食品への投入エネルギーの制御が、他の加熱方法より容易です。食品にとって最も望ましいと考えられる温度に対して、それを出来る限り実現するよう遠赤外線エネルギー投入の条件を追求していくことが、可能となります。このような最適条件追求の結果、食品の味や香り、品質の向上が図られ、食品が美味しくなります。
遠赤外線と電子レンジとの違い
電子レンジは、周波数50あるいは60Hzの家庭の電源から、2,450MHz、すなわち24億5000万Hzという非常に高い周波数のマイクロ波を庫内に発生させています。電子レンジの中のマイクロ波が水分子に当たると、水分子自体が激しく振動を起こし、熱エネルギーとなって水の温度が上昇し、これを介して食品の温度が上昇します。電子レンジでは、食品の表面から数cmくらいまでエネルギーが伝わりますので、他の多くの加熱法に比べ、内部まで素早くあたためることができます。しかし、水分の加熱を利用しているため、食品を焼くことはできません。また、水分の少ないものには向かず、含有水分が均一でないものでは加熱ムラが避けられません。
遠赤外線による加熱は、電子レンジのような振動ではなく、各構成原子がその平衡位置を中心として、微小かつ激しい振動が引き起こされ、温度が上がります。遠赤外線加熱は、どのような場合にでも使える汎用的な加熱手段であり、微妙な温度制御が得意な上、均一加熱性も高く、熱風加熱に比べれば、内部加熱能力にも優れています。一般にエネルギー利用効率が高いこともよく知られています。
まとめ
赤外線は物質をあたためる作用があります。遠赤外線は赤外線の中でもさらに波長の長い領域を指し、波長3~1,000µmまでとなります。加熱などで広く使用されているのは、3~30µmの波長域です。
金属を除くほとんどの物質は、遠赤外線をよく吸収します。遠赤外線をよく吸収する物質は、水や樹脂、ゴム、塗料、木材、繊維、紙、食品、ガラス、セラミックスです。このうちセラミックスは、一般的に耐熱性があるので、セラミックスを加熱して表面温度を高くすれば、そこから遠赤外線が多く放射されます。
ほとんどの物質の固有振動数は、波長に換算すると3~30µmに相当します。これはちょうど遠赤外放射の波長です。このため多くの物質に遠赤外線が当たると、その物質を構成している原子のつながりの振動が促されます。この時、遠赤外線の電磁波エネルギーは、物質に吸収され、物質の振動エネルギーに変わり、熱振動が活発になるので、同時に物質の温度も上昇します。従って遠赤外放射が吸収されれば、すぐその部分の温度上昇をもたらします。
遠赤外線のエネルギーは、金属以外のほとんどの物質において、表面から数百ミクロンまでの間でほとんど吸収されるので、それ以上浸透しません。物質の表面層でエネルギーのほとんどが吸収される遠赤外線は、表面から内部への熱流が高いレベルで供給され、しかもそのレベルが加熱を続けている間、ほとんど低下することがありません。このため遠赤外加熱では、物体深部の昇温が熱風加熱などに比べ、格段に速くなるため、食品産業でも、遠赤外線加熱を活用しています。