香気成分とは、食品をはじめ植物などが放出する揮発性化合物のなかで、人が官能的ににおいを感じる物質を指します。
香りの強弱は、香気成分の濃度によって決まります。濃度の高低によって質が著しく変わる成分もあります。また、香気成分の組成が異なることにより、香りの質に差が生じる場合もあります。
ユズ、グレープ、マンゴー、オレンジ、レモンに特徴的な香気成分は、抽出あるいは調香され、食品に利用されています。
香気成分
香気成分とは、食品をはじめ植物などが放出する揮発性化合物のなかで、人が官能的ににおいを感じる物質を指します。
花の香気成分は、ベンゼン及びベンゼンに類似した芳香族化合物、イソプレン単位に切断できる炭素骨格をもつイソプレノイド、鎖状化合物とこれに類似した環状化合物である脂肪族化合物など生合成経路の異なる化合物群に分類されます。
香りの強弱は、香気成分の濃度によって決まります。濃度の高低によって質が著しく変わる成分もあります。天然ジャスミンをはじめ多くの白色の花に含まれるイ含窒素化合物のインドールは、低濃度ではフローラルな香気を持ちますが、高濃度では糞臭となります。また、香気成分の組成が異なることにより、香りの質に差が生じる場合もあります。バラは多くの芳香性品種が存在し、その香気成分組成により6つの特徴的な香りのタイプに分けられます。
花の香気成分の前駆体は、多種類存在し、香気成分への変換過程も多様です。そのなかで香気成分前駆体の1種である配糖体、すなわち、ひとつあるいはそれ以上の糖が、アグリコンあるいはゲニンと呼ばれる非糖質のものと結合した化合物は、切り花への賦香に応用されています。バラの主要香気成分である2-フェニルエタノールの配糖体を、香りの少ないバラに与えると、バラの花から発散される2-フェニルエタノールの量は大幅に増え、香気強度も高まります。
植物の香気成分
・ユズ
ユズはミカン科の耐寒性の強い常緑小高木で、徳島県や高知県が産地として知られております。生果と果汁での出荷がほとんどで、わずかに果皮から溶剤抽出によってオイルが生産されています。
ユズは調理用柑橘として、その爽快な酸味と快い独特の香気で食生活に親しまれています。
香気の中には、リモネンが多く含まれており、リナロールのほか微量のチモール、ペリラアルデヒドなどが重要な成分となっています。
・カシス
カシスは、北ヨーロッパから北アジアの寒冷地に生育するユキノシタ科の潅木です。ストロベリーやブルーベリーなどと同じベリー類の1種で、6~8月にかけて直径1cmほどの濃い紫色の実をたくさん付けます。
程良い酸味と香りが特徴のこの実は、ジュースやジャムのほか、リキュールの原材料としても使われています。「
カシスの香りは、さまざまなテルペン化合物やエステル類が寄与していますが、最もカシスらしい重いフルーティーなにおいには、4-メトキシ-2-メチルブタン-2-チオールが関与しています。
・ウメ
ウメはイチゴ、モモ、アンズなどと同じバラ科の落葉中高木で、原産地は中国の四川省と湖北省の山岳地帯です。
ウメの実は、その効能が明らかになるにつれ長期保存する方法が考え出されていきました。
ウメの花の甘い香りには、モモ、チェリー、アプリコットなどにも含まれるベンズアルデヒドやオイゲノールなどの香気成分が、ウメの実にはベンズアルデヒドを中心に酢酸エチルなどのエステル類やガンマデカラクトンなどのラクトン類が含まれています。
・チェリー
チェリーはバラ科サクラ亜属に属する落葉高木の果実です。アメリカ、ドイツ、フランス、日本など世界各地で栽培され、生食のほか、缶詰、天然果汁として利用されます。
チェリーの香りは、一般的に西洋チェリーがベンズアルデヒドを中心としたパンチのある香りで、国産のものは果肉感のあるみずみずしい香りです。香気成分としてはベンズアルデヒドが特徴的で、ほかには脂肪酸エステル類、ヘキセノール類、ヘキセナール類が主です。
・アプリコット
日本ではあんずと呼ばれるバラ科の落葉性高木で、中国華北地方の原産です。果実は核果で有毛、みぞがあり、白粉を吹き、成熟すると淡黄色または橙黄色になります。
アプリコットの核仁は杏仁と呼ばれ、漢方では鎮咳去痰薬として配合されています。杏仁にはアミグダリンがおおよそ3%、脂質30~50%が含まれており、圧搾して得られる杏仁油は化粧品の原材料となり、搾りかすを蒸留して得られる杏仁水は鎮咳薬にされます。
果肉の香気成分は、リナロール、ゲラニオール、ネロールなどのアルコール類、ベンズアルデヒド、パラサイメンなどが中心で、他にはγ-ブチロラクトン、γ-デカラクトンなどのラクトン類、エチルラウレート、エチルミリステート、イソブチリックアシッドなどのエステル、酸類も検出されています。
・スイカ
スイカは、4000年以前から栽培されている長い歴史のあるウリ科の果実です。原産地は諸説がありますが、南アフリカであるとの説が一般的です。
果肉は紅肉と黄肉があり、紅肉種が90%を占めています。この特有の紅色は、リコピンとカロチンによります。栽培品種は品種改良が盛んに行われ、その数は非常に多いのが特徴です。近年は著しく甘みが強い品種が好まれています。
果肉部の香気成分はアルデハイド類、アルコール類、ケトン類などで、得にスイカのみずみずしさに寄与している成分は3,6-ノナジエナール、3-ノネナールと言われています。
・グレープ
グレープは世界の大多数の国で栽培され、果物類の全生産量の半分に達するといわれています。日本でも北海道から九州まで全国的に生産されていますが、主な生産地は山梨で、山形、長野と続きます。グレープには生食用、ワイン用それぞれにいろいろな品種があります。
グレープの香りの成分としては、エチルアセテート、メチルアンスラニレートなどのエステル類をはじめ、リナロール、ヘキサノール、フラネオールなどがあげられます。これらの組み合わせにより、巨峰、マスカットなどの特徴のある香りが作り出されます。
・メロン
メロンはウリ科に属する一年生のつる草植物です。種類としては、雨量の少ない地域で発達したネットメロン、カンタロープ、ウインターメロンなどの西洋メロン、インドや中国の比較的湿潤な地方で栽培された東洋系のマクワウリがあります。マスクメロン(Musk Melon)は、ジャコウ(Musk)にちなんでつけられた名称で、芳香の特に強いネットメロン、カンタロープに与えられました。
独特のみずみずしい香りとグリーン香に特徴があり、重要な成分としてはcis-6-ノネナール、3,6-ノナジエン-1-オール、trans-2- cis-6-ノナジエナール、cis-3-ヘキセノールがあげられ、他にも酢酸エステル類、プロピオン酸エステル類、酪酸エステル類などの多種の香気成分が報告されています。
・モモ
モモの原産地は中国華北の陜西省や甘粛省の高原地帯です。
果実の香気成分として確認されている物質は、86成分に達し主にエステル類、ラクトン類、アルデヒド類ですが、未熟の時は、エステル類が多く成熟すると共にラクトン類が増加することが知られています。
他の果実に比べ、炭素数6~10のラクトン類の存在が特徴的です。そのほかに酢酸ヘキシル、酢酸トランス-2-ヘキセニル、ベンツアルデヒド等が比較的多く存在しています。
・リンゴ
リンゴの原産は中央アジア地方で、起源は古く4000年も前のことです。
リンゴの主要な香気成分は、新鮮な青さと甘さを演出するヘキサノール、ヘキサナール、トランス-2-ヘキセナールなどの炭素数が6個の化合物です。エチルブチレート、ブチルアセテート、ブチルブチレートなどのエステル類は甘さと完熟感を与えます。
・マンゴー
マンゴーは、熱帯アジア原産のウルシ科の常緑樹で、普通10~30メートルほどに伸び、枝を大きく張りひろげます。
マンゴーには特有の強い香りがあり、味わいは甘く柔らかく、口の中で溶ける美味しさがあります。現在では世界各地で栽培されており、品種も数千種以上あります。果実の色も黄色からオレンジがかった赤と変化に富んでいます。
香気成分としては、アセトイン、ターピネン、酪酸、ラクトン類などがあげられます。
・バナナ
バナナは、マレーシアが原産といわれていますが、現在では広く熱帯各地で栽培されています。世界のバナナの生産量の60%は中南米で、残りはアジア各地、アフリカなどで生産されています。
バナナ特有の甘い果実様を与える香気成分としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸などのアミルエステルがあげられます。また、微量でも、完熟感を与える特徴的香気成分として、オイゲノール、オイゲノールメチルエーテル、エレミシンなどのフェノールエーテル類があげられます。
・パイナップル
パイナップルの原産地は、中米及びブラジル北部を中心とする地方です。
香気成分としては、カプロン酸メチル、エチルエステルが非常に多く、含硫化合物としては、3-メチルチオプロピオン酸メチル、エチルエステルが知られています。また、2.5-ジメチル- 4-ヒドロキシ-3(2H)フラノンは、熟した感じの香気成分として知られています。
・ブルーベリー
ブルーベリーは、ツツジ科スノキ属の低木果樹で、6~7月下旬にかけて、1cmほどの丸い紫色の果実をつけます。ブルーベリーという名は果実の青色に由来しています。スノキ属は、ブルーベリーのほかにクランベリー、ハックルベリーなど世界に百種以上もあり、主に北半球の寒冷地に分布しています。ヨーロッパ、アメリカでは、野生種の採取が古くから行われ、ポピュラーな果物として、生食の他に、ジャム、ヨーグルト、タルト、肉料理のソースなどに利用されています。
香気成分は、トランス-2-ヘキセナール、トランス-2-ヘキセノール、シス-3-ヘキセノールなどのグリーン系の香りと、リナロール、ゲラニオールなどのフローラルな香り、それに酢酸などが主なものです。
・イチゴ
イチゴはバラ科の植物で、北米とチリ中南部原産の2種がヨーロッパで交雑し、現在の品種が生まれたようです。
香気成分は、これまでに300種以上が分析されていますが、新鮮なイチゴの香気には、酢酸エチル、酪酸メチル、酢酸ブチル、カプロン酸メチルなどのエステル類をはじめとし、アルコール類、酢酸などが重要であるといわれています。また独特の甘い香りに関与する成分として、2、5-ジメチル-4-ヒドロキシ-3(2H)-フラノンやラクトン類が知られています。
・グレープフルーツ
ブドウの房のように果実が群がってつくことから名づけられたグレープフルーツは、西インド諸島のバルバドス島でブンタンの自然雑種として誕生しました。
グレープフルーツは生果だけでなく、ジュースや缶詰にも利用され、その生産量は全柑橘の10%をも占めるようになりました。主な生産地は、アメリカ、イスラエル、アルゼンチン、南アフリカなどです。
グレープフルーツの香気の特徴はヌートカトンで、果実中にはおおよそ200ppm含まれています。その他の香気としては、シトラール、リナロール、炭素数 8~10のアルデヒド、バレンセン、その他のエステルが挙げられます。また、独特のさわやかな苦みはナリンジンという物質に由来し、果実中に 0.03~0.1%含まれています。
・バレンシアオレンジ
世界の柑橘生産量のおおよそ70%を占めるバレンシアオレンジは、アメリカのフロリダ州、メキシコが主要生産地です。
オレンジオイルは、果皮の圧搾、または果実全体を圧搾し果汁を得る時に分離して採油されます。
その香気成分は、d-リモネンが90%以上を占めています。炭素数8~12のアルデヒド類はフレッシュな果皮感を、シネンサールは甘い果汁感を、酢酸エチル、酪酸ブチルなどのエステル類は、甘く熟した香りの主成分です。
・レモン
レモンオイルはフレッシュで爽やかな香気をもっているため、とても人気が高く、オレンジと並ぶ定番で、飲料用フレーバーなどによく使われます。
レモンの香りの特徴を出す香気成分はシトラールですが、その他アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、エステル類などとの調和によって、レモン特有の香りがかもし出されます。
まとめ
香気成分とは、食品をはじめ植物などが放出する揮発性化合物のなかで、人が官能的ににおいを感じる物質を指します。
香りの強弱は、香気成分の濃度によって決まります。濃度の高低によって質が著しく変わる成分もあります。また、香気成分の組成が異なることにより、香りの質に差が生じる場合もあります。
ユズ、グレープ、マンゴー、オレンジ、レモンに特徴的な香気成分は、抽出あるいは調香され、食品に利用されています。