油脂が美味しいということは、実感していますが、油脂を美味しく感じる仕組みは、まだよくわかっていません。
動物実験によると中脳から大脳皮質につながる神経の束で、快感を生み出していると考えられるようになりました。したがって、油脂もここを刺激すると考えられています。油脂を与えると、幸福感をもたらすβ-エンドルフィンの濃度が脳や血液中で上昇することからも、美味しさが脳の快感とつながっているのは、間違いありません。
料理にほんの少量の油脂を加えるとぐっと味がよくなります。少量の油脂をうまく使いこなすことで、料理の腕が格段に上がったと羨望の眼差しで見られるかもしれません。
油脂の美味しさの謎
油脂が美味しいということは、実感していますが、油脂を美味しく感じる仕組みは、まだよくわかっていません。実際のところ、食品メーカーが製品のリニューアルなどで油脂を減らすと、コクがなくなったといった指摘が来ることがよくあります。ただ、なぜ油脂がおいしいのかは、謎に包まれています。
油脂の美味しさを解明するための実験
油脂が本当に美味しいのかは、動物による実験で明らかにされています。マウスのエサに関する実験で、通常のエサとなる飼料に追加で砂糖を加えたときと油脂を加えたときでは、油脂を加えた方が食べる量が増えています。つまり、油脂のおいしさには勝てないということです。
純粋で新鮮な油脂には味もにおいもなく、あるのはトロっとした舌触りだけです。にもかかわらず、料理に入れると美味しくなります。味覚という言葉は、味やにおいを指すので、油脂は味覚を刺激しているのではないということになります。また、スープのように液状のものに油脂を入れても美味しいので、油脂のおいしさはなめらかな食感だけでは説明できません。
まず、舌が油脂を化学的に認識しているか、あるいは油脂が舌に受容されているかを調べた研究があります。犬にエサを与えてベルを鳴らすと、やがてベルの音だけで唾液が出る反射が起こるパブロフの犬の実験があります。これは口や脳から唾液腺へ神経がつながっていて、反射が起こることを示した実験です。この実験を応用して、食道をカットしたラットに油脂を与え、膵臓から小腸に向かって消化酵素が分泌されるかどうかを調べ、消化酵素が分泌されれば、口から脳、脳から膵臓へ神経の伝達があったことになります。砂糖で試してみると、やはり消化酵素が分泌されました。油脂で行うと同様に消化酵素や胆汁、膵液が分泌されました。つまり、舌に油脂を化学的に受容する仕組みがあることになります。次に口で化学的に受容された油脂の情報が脳に伝わるかどうかを調べました。味の情報が脳に伝わる神経経路には、大きく分けて、舌の前側3分の1くらいをカバーする鼓索神経と舌の奥の方をカバーする舌咽神経の2系統があります。鼓索神経を切断し、電極を付けて興奮を見ると、鼓索神経はどんな油脂を与えても応答しませんでした。一方、舌咽神経は油脂を垂らすと信号が出ました。油脂は舌の真中から奥の方で受容され、信号を脳に伝えています。
さらに油脂が脳を興奮させるかどうかの動物実験です。方法は、白箱と黒箱が連結されている装置で、ラットがどちらの箱に何秒いるかを調べます。1日目に白箱に油脂を入れ、翌日には黒箱に水、翌日はまた白箱に油脂と同じことを3回繰り返すと、ラットは、白箱は油脂、黒箱は水と学習します。4日目に何もない白箱と黒箱で観察すると白箱の油脂に固執して、滞在時間が長くなります。この実験では、油脂の種類を問わず、白箱の滞在時間が長くなっています。このことから、脳が興奮している可能性が考えられます。
カナダの研究者たちがラットの頭に電極を入れて、脳の働きを調べていたとき、中脳から大脳皮質につながる神経の束に電極を入れると、ラットが自分の頭を刺激して止めなくなることがわかり、この部分が快感を生み出していると考えられるようになりました。美味しいものもここを刺激すると考えられています。この部分に関係し、快感、おいしさを感じたときに出るホルモンのドーパミンの受容体を薬品でブロックすると油脂に固執しなくなることがわかりました。油脂を与えると、同じく幸福感をもたらすβ-エンドルフィンの濃度が脳や血液中で上昇することからも、美味しさが脳の快感とつながっているのは、間違いありません。
油脂のエネルギーとおいしさの関係については、消化されないノンカロリーオイルとコーン油などの消化されるオイルをマウスに与えると、時間が経つうちに、ノンカロリーオイルに見向きもしなくなります。別の実験で、マウスがノンカロリーオイルを食べた後に、胃の中にエネルギーとして消化されるコーン油を加えました。そうするとマウスは今食べたノンカロリーオイルにエネルギーがあったように錯覚します。それを繰り返すと、ノンカロリーオイルに固執するようになります。外側からエネルギーを補うと、口から食べた物に固執します。胃の中にコーン油の替わりに砂糖を入れても、同様に口の中のノンカロリーオイルに固執します。つまり、口の中は油脂でなくてはならず、その化学的受容が認識された信号が保たれていますが、胃の中はエネルギーさえあればいいということになります。
実験結果
このような結果から、油脂をはじめとした食べ物の美味しさは、口と胃の両方が決めていて、口から摂る分にはごく少量でも十分な刺激となり、一方胃にはエネルギーが必要とわかりました。人は、口に油脂が入ったことは認識しつつも、そのエネルギーの有無はわからないので、少量で十分おいしく感じる可能性が高いと考えられます。
料理にほんの少量の油脂を加えるとぐっと味がよくなります。少量の油脂をうまく使いこなすことで、料理の腕が格段に上がったと周りからも思われるかもしれません。
まとめ
油脂が美味しいということは、実感していますが、油脂を美味しく感じる仕組みは、まだよくわかっていません。
動物実験によると中脳から大脳皮質につながる神経の束で、快感を生み出していると考えられるようになりました。したがって、油脂もここを刺激すると考えられています。油脂を与えると、幸福感をもたらすβ-エンドルフィンの濃度が脳や血液中で上昇することからも、美味しさが脳の快感とつながっているのは、間違いありません。
料理にほんの少量の油脂を加えるとぐっと味がよくなります。少量の油脂をうまく使いこなすことで、料理の腕が格段に上がったと羨望の眼差しで見られるかもしれません。