認知症とは
厚生労働省の認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)によると認知症高齢者の数は、2012年で 462 万人、2025年には約 700 万人、65 歳以上の高齢者の約5人に1人に達することが見込まれています。今や認知症は誰もが関わる可能性のある身近な病気です。
ご家族が高齢化してくると、心配になるのが認知症の発症です。体は健康でも、もの忘れが増えてくると「もしかすると認知症?」と不安になってしまいます。近年では高齢でなくても若年性認知症にかかる方も増加しています。
精神機能が慢性的に減退・消失することで、日常生活・社会生活を営めない状態を認知症と言います。記憶障害と知的障害の損失で定義されている疾患ですが、主にアルツハイマー型認知症と血管性認知症の二つに分けられます。
・アルツハイマー型認知症
「アルツハイマー型認知症」は、1906年にドイツの医学者だったアロイス・アルツハイマーが、学会ではじめて認知症の症例を報告したことが病名の由来です。進行性の病気で、現れる症状としては、もの忘れがひどくなる記憶障害や時間や場所がわからなくなる見当識障害、電気製品が上手く使えないなどの実行機能障害、物盗られ妄想などが挙げられます。アルツハイマー型認知症の原因はまだ完全に解明されていません。最も有力なのは、脳内に「アミロイドβ」や「タウ」などの異常なタンパク質が蓄積し、それが脳の神経細胞の働きを低下させるという見解です。最近の研究によると、糖尿病や高脂血症の方は、アルツハイマー型認知症のリスクが高いと報告されています。
・血管性認知症
血管性認知症は、脳内の血管に障害が起きることで、神経細胞が壊れて発症する病気です。アルツハイマー型認知症に次いで多い認知症の原因となっています。血栓によって血管が詰まったり(脳梗塞)、脳の血管が破れて出血してその後遺症が残ったりすると(脳出血)、その部位および周辺にある神経細胞が壊れます。それが原因で、認知症を引き起こします。
残念なことに現在使用されている薬には、根本的に認知症の進行を止める働きはなく、服用しても最終的に認知症は進行します。記憶障害を劇的に改善させるほどの効果も期待できません。しかし脳の働きをある程度保つ可能性があります。
認知症を予防する食生活
1. バランスの良い食事
たんぱく質、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラルなどの栄養バランスの良い食事をすることで、脳に必要な栄養素である魚油に多く含まれるEPAやDHAなどのオメガ3脂肪酸、葉酸、ビタミンA、C、E、ファイトケミカル(健康に良い影響を与える植物由来の化学物質 トマトのリコピンやニンジンのβ-カロテン、イチョウ葉のフラボノイド、大豆のイソフラボン、キノコのβ-グルカン、米ぬかのポリフェノールなど)、ミネラルを補うことができます。
緑黄色野菜や豆類、果実類には、葉酸が多く含まれています。葉酸はビタミンB群の一種であり、ホモシステインという物質の生成を抑制します。ホモシステインは、動脈硬化を進行させ、アルツハイマー型認知症の原因となるアミロイドβの作用を強める働きがあります。葉酸は、藻類、肉類、野菜類、卵類、乳類、豆類などに多く含まれ、通常の食事で不足することはありません。
さんま、あじ、いわし、さばなどの青魚には、オメガ3脂肪酸のDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)が多く含まれています。DHAは脳の構成成分であり、記憶力や判断力の向上、認知症予防、特にアルツハイマー型認知症の発症予防に有効であるという報告があります。
2. 適正な摂取カロリー
摂取カロリーに気をつけることで肥満を予防します。肥満はアルツハイマー型認知症になりやすいからです。
3. 必要以上の塩分を避ける
血管性認知症は脳梗塞と関連性があり、高血圧が引き金となっている場合が多いので、高血圧予防のために減塩を心がけましょう。カリウムを多く含む野菜や果物、海藻類は血液中のナトリウムを排泄する働きがあります。脳梗塞を予防することで、脳血管性認知症の予防につながります。
4. 間食を避け、糖分を抑える
糖尿病は、脳血管性認知症及びアルツハイマー型認知症の発症リスクを高めます。血糖値をコントロールするためにも、糖分の多いお菓子、炭水化物中心の食事を控え、野菜やきのこ類、海藻類から食物繊維を摂取し、血糖値の上昇を防ぎましょう。
認知症を予防する有酸素運動
認知症の予防法としてよく挙げられるのが、有酸素運動です。有酸素運動とは、筋肉を収縮させる際のエネルギーに、酸素を使う運動のことをいいます。ジョギングや水泳、エアロビクス、サイクリングといった、ある程度の時間をかけながら、少量から中程度の負荷をかけて行う運動が代表例です。1日30分の運動を週3回以上行うことが良いとされています。有酸素運動をすることで、脳由来神経栄養因子が出て新しい神経や血管が生まれることがわかっており、認知症の予防につながると期待されています。
認知症を予防する健康食品
厚生労働省によると多くの健康食品は、記憶力を強化し脳機能と脳の健康を改善すると謳って市販されています。現時点では、健康食品が認知症やアルツハイマー病の進行を逆行させたり遅らせたりするという確固たる報告は研究から得られていません。しかしながら、健康食品に関する研究は進行中であり、効果がないとは言いきれません。あくまでも感想となりますが、体験談による改善報告は散見されます。
中でも、イチョウ葉に含まれるフラボノイド、米ぬかに含まれるポリフェノールの一種となるフェルラ酸、中国では宮廷料理の珍味とされ、食材としても多くの国で人気があるヤマブシタケというキノコに含まれるヘリセノンとエリナシンという成分に予防効果が期待されます。特にヘリセノンとエリナシンは、近年注目されています。 アルツハイマー型認知症では、神経細胞の働きが低下すると言われておりますが、それを防ぐのがNGFという神経細胞成長因子です。ヘリセノンとエリナシンはNGFを増加させ、神経細胞の働きが低下するのを防ぐことが報告されたことから、注目を集めています。併せて、オメガ3脂肪酸のDHAやEPAを摂取することが予防に効果的でしょう。
まとめ
高齢者は特にもの忘れを心配し、それがアルツハイマー型認知症の最初の徴候ではないかと不安になります。実際、もの忘れにはさまざまな原因があります。通常の加齢に伴うものや治療可能なさまざまな健康問題、もしくはストレスや不安などの情緒障害と関連していることもあります。この認知症を予防するには、バランスの取れた食生活や有酸素運動が効果的です。頭では理解していても、実際に行動することは難しいこともあります。「毎日気を使って献立を考えるのが大変」、「外食ばかりでバランスを保てない」、「毎日の有酸素運動は続けられない」といった悩みが払拭できない場合、まずはイチョウ葉や米ぬか、ヤマブシタケ、オメガ3脂肪酸などを含有する健康食品を取り入れてみてはいかがでしょうか。
行動することで、不安が和らぎ、今の生活が落ち着きます。主治医が認知症のご家族に対して、「数年後には、家族の顔も名前も分からなくなる日が来る」と言われる日がくるかもしれません。とても悲しいことですが、大変な思いをしている方々はたくさんいます。だからこそ、ご家族のためにできることを行い、楽しい思い出を沢山つくることを願ってやみません。