抽出とは
和食を作るとき、昭和の頃は、家庭で削ったかつお節や昆布から丁寧に「だし」をとっていました。今も和食のお店などは本格的にだしをとっていますが、多くの家庭ではスーパーからだしパックやつゆの素を購入し、手軽に料理を楽しんでいます。ここで言うだしとは、出し汁のことです。かつお節や昆布、しいたけ、煮干しなどを煮出して料理のうまみを引き出すことに使っています。和食のだしは、フランスではブイヨン、中国ではタンに相当し、様々な原料が用いられます。
肉と香味野菜からとるブイヨン、牛や豚、鶏の肉や骨、金華ハム、干し鮑、干し貝柱などからとるタンと比べて、和食のだしは素材そのものの味を引き立てることが特長です。
加工食品の分野では、このだしをとる工程は抽出に該当します。工場内のタンクにかつお節や昆布、水を入れ、蒸気で加熱してうまみ成分を抽出するのです。容量10トンやそれ以上のタンクをいくつも並べ、連続してだしをとるので、現場は真冬でもとてもあつい職場です。抽出後、濾過工程でかつお節や昆布の抽出残渣を取り除きます。だしはそのまま使用、あるいは濃縮して、保管や別工場で使用します。豚骨ラーメンに欠かせない豚骨スープも同様に砕いた骨と水をタンクに入れ加熱し、ときには加圧してスープを取り出します。スープはそのまま冷凍したり、アセプティックという無菌充填装置で殺菌の上、小分け包装したり、遠心分離機で水溶性の成分と脂溶性成分を分け、濃縮し、食塩などの調味料を加え、業務用濃縮スープとして販売します。
抽出方法
一口に抽出といっても、原料や成分により抽出方法はさまざまです。熱水での抽出、アルコールによる抽出、酵素反応などの技術を用い機能性成分を回収する抽出、超臨界二酸化炭素抽出、水蒸気蒸留による香りの抽出などがあり、目的に応じて抽出方法を選択する必要があります。
・熱水抽出
一般的な抽出方法です。原料に水を加え、加熱して成分を抽出します。だしの取り方が該当します。
・アルコール抽出
主に水の代わりにエタノールで抽出します。水では抽出しにくい成分や香りの成分を抽出します。
・酵素反応などの技術を用い機能性成分を回収する抽出
植物や微生物から特定の成分を効率よく抽出したいとき、細胞の周りを構成している成分を酵素で分解することで、目的の成分を抽出、回収します。
・超臨界二酸化炭素抽出
二酸化炭素に圧力と温度を加えていくと約72気圧・31度(臨界点)で、気体と液体の中間である流体(超臨界流体)になります。その超臨界流体の中に原料を入れると、香り成分と有効成分が流体に浸透して溶け出します。その後、流体の圧力を元に戻して気化させると、香り成分や有効成分だけが抽出されます。
・水蒸気蒸留
植物などから目的とする沸点の高い物質を水と蒸留する方法です。その物質の沸点よりも低い温度で抽出することができます。主に精油の抽出に用いられます。
食品工場での一般的な熱水抽出工程
1 抽出
抽出方法は目的により異なりますが、熱水で抽出する場合、仕込み温度、抽出温度、抽出時間を設定します。
2 濾過
抽出物の状態や最終製品の形態によって濾過方法を選択します。 通常フィルターや遠心分離機などを使用します。
3 濃縮
真空減圧した装置内に抽出物を連続して送り込み、減圧下で水分を蒸発させ、取り除きます。
まとめ
和食において、だしは料理の基本です。そしてだしのとり方は様々です。基本はあってもこれが正しいというものはないのではないでしょうか。家庭や和食のお店のだしの取り方もそれぞれ工夫がほどこされ、使っている食材との相性を研究し、独自のとり方をされています。
加工食品の分野でも、このだしをとる工程、つまり抽出を日々研究しています。原材料の種類や産地、抽出方法も様々です。同じ方法で抽出しても、気温などの条件に影響され、同じものができません。しかし、ここが面白いところで、条件設定の試行錯誤を繰り返しながら、喜ばれる製品づくりに日夜励んでいます。