ブランディングとブランド戦略
企業の製品やサービス、企業自体のコンセプトを明確にして、誰がどんな場面で使う製品なのか、どんな企業なのかを消費者にわかりやすく示すことをブランディングといいます。
ブランディングには、戦略が欠かせません。ブランド戦略とは、ブランディングを行うための戦略のことです。
ブランド戦略を行うことで得られる利点は、「競合他社との差別化ができる」、「消費者からの信頼感を得ることで、長期的な売り上げが見込める」、「多額な広告宣伝をかけなくても集客できる」、「認知度が上がり、新規顧客の獲得がしやすくなる」、「ブランド自体に価値があるので、自由な価格設定ができる」などです。
競合他社との差別化としては、「ビールといえば○○○」といったような絶対的なブランド力を獲得できれば、その製品が欲しい消費者を囲い込むことができ、競合他社に付け入る隙を与えません。消費者からの信頼感を得ることにより、消費者はずっとその製品を買い続けてくれることが期待でき、長期的な売り上げにつながります。ブランド力のある製品は、スーパーなどに置いてあるだけで売れ続けていくため、多額な広告宣伝をかけなくても集客ができます。だれもが認知している製品や企業ということで、新規顧客からの信頼も得やすく、営業活動もしやすくなります。しかも、ブランド自体に価値があるため、多少の値上げによる消費者離れは起きにくく、自由な価格設定が可能になります。
ブランド戦略の立案
ブランド戦略の立案方法としては、まずターゲット及びポジショニングを決めること、ブランドアイデンティティを明確にすること、ブランドを伝えることです。
ターゲット及びポジショニングを決めることとは、自社の強みを分析、把握し、ターゲットとする消費者層を明確にすることです。ブランディングにおいては、ターゲットとする層の見極めが成否を分けるといっても過言ではありません。自社の強みを的確に捉えるのはなかなか難しいですが、消費者への価値提供を行う自社の能力のうち、他社には真似することのできない中核的な能力を分析するコア・コンピタンス分析や自社(Company)、競合他社(Competitor)、消費者(Consumer/Customer)のそれぞれをリサーチし、戦略を考える3C分析、SWOT分析(スウォット分析)などを通して抽出します。SWOT分析とは、「強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)」の頭文字から命名されたフレームワークです。SWOT分析を使うことにより、自社の環境要因を考える視点を得ることができます。SWOT分析の手法としては、強み、弱み、機会、脅威の4つを組み合わせて分析することで、自社にとっての強みやその市場機会、事業課題を発見することができます。また、ソーシャルメディア(SNS)の内容を分析することで、今まで気づかなかった強みが見えてくる可能性もあります。
ブランドアイデンティティを明確にする前に、まずブランドアイデンティティとは、ブランドに対して消費者にどんなイメージを抱いて欲しいか、あるいはブランドは消費者にどのような価値を提供したいかといったコンセプトを指します。このコンセプトがブレてしまっては、元も子もありません。ブランドというものは、そのブランドたるアイデンティティがあってこそ存在します。ブランドアイデンティティを明確にすることとは、もちろん自社の強みを生かした内容にする必要があります。市場において、他社にはできない自社ならではの分野を発掘して、唯一無二のブランドアイデンティティを確立します。
ブランドアイデンティティが決まったら、文書やデザインなどに落とし込み、自社ブランドを広く伝えます。考案したブランドも、大勢の消費者に知ってもらわなければブランディング自体が成功しません。また、消費者を大切にし、意見を取り入れることも大切です。なお、ロゴマークやキャッチコピーは、抽象的なブランドメディアであり、それを元に作られたパンフレットや看板、広告などは可視的なブランドメディアとなります。
ブランド戦略を成功させるには、自社の強みを活かしたブランドにすることが必須となります。ターゲットとする消費者を明確にし、一度決めたコンセプトはゆるぎないものでなければなりません。獲得した消費者を大切にし、ブランドのコアなファンになってもらえれば長期間の継続した購買が期待できます。ファンを失望させないようするためにも、自社ブランドを伝えるプロモーション活動には、細心の注意を払う必要があります。
食品に関するブランディングの事例
杉山フルーツ
静岡県富士市の商店街に果物を販売する杉山フルーツがあります。商店街の中にある個 人商店は、ビジネス上、非常に厳しい環境です。大手スーパーの進出とともに、商店街の店舗数も減り、果物の購入のためだけにわざわざ行くことはありません。このような環境下で、杉山フルーツは他に類を見ないほど好調な業績です。
店舗へ1日あたり100~150人が来店し、客単価は3,000〜5,000円で、同業者の平均の倍の数字となっています。10,000円以上のメロンが、年間で7,000~8,000個売れています。
これだけの数字を出しているのは、杉山フルーツが消費者の頭の中にブランドを築き上げているからです。杉山フルーツのブランドコンセプトは、消費者に徹底して最高の果物を届けるということです。日本最大の果物市場に出かけ、最大の強みである目利きで果物を選び、選び抜いた果物は店舗ですべて検品する徹底ぶりです。さらに消費者がこれで満足するかを検証します。これだけ徹底してこだわっているので、そのこだわりはどんどん広まり、杉山フルーツで果物を買えば間違いないというブランドコンセプトが、消費者の頭の中に醸成されるのです。
消費者からの感謝や感動の電話が鳴り止まないことも想像に難くありません。
伊那食品工業
伊那食品工業は、かんてんパパと呼ばれる食品ブランドで有名な食品メーカーです。寒天の国内市場のシェアは約80%。世界的に見ても15%のシェアを誇るブランドとして知られています。
伊那食品工業は創業以来、寒天を研究し続けてきました。社員の1割は、寒天の研究開発に従事しています。寒天を食品としてだけでなく、寒天を用いた医薬品や化粧品の開発にも注力し、寒天カテゴリーのブランドを確立、自社の強みを生かした製品の開発に力を入れ、業界内で自社のポジショニングに成功しました。
社員の末永い幸せを築くことを貫いてきた伊那食品工業の戦わない経営が、このブランドを築き上げています。伊那食品工業の創業者は、「会社を取り巻くすべての人から、いい会社だねと言ってもらえる会社」、「社員自身が会社に所属することに幸せをかみしめられる会社」を社是に掲げています。
この社是を実現するための経営方針があります。ひとつは、「無理な成長は追わない」ということです。これは、景気やトレンドに踊らされないことです。好景気や業界が追い風のときは、設備投資や人員の増強などを進めますが、環境が変わり不景気になると、人件費の削減やリストラ、工場の稼働率を維持するための値引き販売などブランドの価値を落とす結果になることが散見されます。もちろん、世の中の動きを捉えることは大切ですが、景気は日々変化するという前提に立ち、自社の目指す姿に対して、何を成すべきかを冷静に判断しています。成長することが重要なことは承知の上、やみくもな成長に固執せず、社員の能力や会社の体制を整えながら、一歩一歩着実に成長することを念頭に置いています。
経営方針の残りふたつは、「敵をつくらない」、「成長の種まきを怠らない」ということです。競合他社とシェアの奪い合いを繰り広げる企業が多い中、「会社を取り巻くすべての人から、いい会社だねと言ってもらえる会社」を目指す伊那食品工業は、自社の影響で泣くことになる企業が存在することを前提とした成長は、目指さないとしています。そのためにも、他社と競合しないように、この世にない製品や他社で真似のできない製品で、かつ世の中の需要を満たすオンリーワンな製品を開発し続ける必要があります。そこで心血を注いでいるのが、「成長の種まきを怠らない」こと、すなわち研究開発と社員への投資のことです。研究開発については、人材の1割を研究開発に配属し、寒天の原材料となる海藻の研究や生産の技術開発に取り組んでいます。さらに寒天の新しい用途開発のため、社員にさまざまな経験をしてもらうよう心がけています。その取り組みは、他社の工場見学、異業種交流会、原材料の産地の視察などです。
このように、「会社を取り巻くすべての人から、『いい会社だね』と言ってもらえる会社」、「社員自身が会社に所属することに幸せをかみしめられる会社」という社是に対して、ブレない経営をしていることが、伊那食品工業というブランドが構築されている大きな理由です。
まとめ
企業の製品やサービス、企業自体のコンセプトを明確にして、誰がどんな場面で使う製品なのか、どんな企業なのかを消費者にわかりやすく示すことをブランディングといいます。ブランディングには、戦略が欠かせません。ブランド戦略とは、ブランディングを行うための戦略のことです。
ブランド戦略を行うことで得られる利点は、「競合他社との差別化ができる」、「消費者からの信頼感を得ることで、長期的な売り上げが見込める」、「多額な広告宣伝をかけなくても集客できる」、「認知度が上がり、新規顧客の獲得がしやすくなる」、「ブランド自体に価値があるので、自由な価格設定ができる」などです。
ブランド戦略の立案方法としては、まずターゲット及びポジショニングを決めること、ブランドアイデンティティを明確にすること、ブランドを伝えることです。ターゲット及びポジショニングを決めることとは、自社の強みを分析、把握し、ターゲットとする消費者層を明確にすることです。ブランドアイデンティティとは、ブランドに対して消費者にどんなイメージを抱いて欲しいか、あるいはブランドは消費者にどのような価値を提供したいかといったコンセプトを指します。
杉山フルーツのブランドコンセプトは、消費者に徹底して最高の果物を届けるということです。最大の強みである目利きで果物を選び、選び抜いた果物は店舗ですべて検品する徹底ぶりです。これだけ徹底してこだわっているので、そのこだわりはどんどん広まり、杉山フルーツで果物を買えば間違いないというブランドコンセプトが、消費者の頭の中に醸成されるのです。
伊那食品工業の創業者は、「会社を取り巻くすべての人から、いい会社だねと言ってもらえる会社」、「社員自身が会社に所属することに幸せをかみしめられる会社」を社是に掲げています。他社と争わず、無理な成長を求めず、オンリーワンの製品開発で高いシェアを得、社員の末永い幸せを念頭に置いた伊那食品工業の戦わない経営が、同社のブランドを築き上げています。