【長期的視野と複合思考】食品産業の戦略

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戦略の方向性

 少子高齢化による人口減少社会において、どうすれば事業活動を継続できるのでしょうか。どのように需要を掘り起こせるのでしょうか。世界市場にどのような形で存在感を示せるでしょうか。

 食品産業が抱える課題は、日本の産業全体が抱える課題の縮図とも言えます。人口減少のペースに合わせて需要が減少すれば、日本の食品産業の規模は、2050年には現在の4分の3になってしまいます。そのような状況に陥らないための企業戦略が必要となります。

需要を引き出す新たな価値創造

 重要なことは、製品開発やマーケティングを通じた需要創造によって売上を増やすことです。国内市場における需要創造は、健康志向や高齢化など日本の経済社会の変化に応じて新たな製品を投入すること、従来の製品に新たな価値を見いだして提供することが考えられます。日本の食品産業は、新たな製品を次々と投入する製品開発力に溢れています。食品産業が、強みと機会を土台にして新しい需要、新しい消費を喚起すれば、日本経済全体にも貢献できる可能性があります。

 日本経済の活性化のために必要なことは、今までなかったような製品やサービスが提供され、新たな需要を創り出すことです。食品産業は、日本経済が抱える需要不足という閉塞を打ち破る可能性を秘めています。1世帯あたりの1ヵ月間の実質の食料消費支出は2011年の6.7万円から2016年の7.3万円と約9%増加しています 。消費者庁の調査でも、現在お金を掛けているものとして挙げられたのは、食べることが69.9%で最も多く、今後お金を掛けたいと思っているものも食べることが50.8%で最も多い状況です。

海外市場の開拓

 日本の食品産業は、さまざまな食材や調理法といった独特な食文化に育まれた歴史や伝統を背景に他国にない製品を生み出してきました。また、世界で最も敏感で厳しい消費者に鍛えられてきています。さらに高齢者の増加や個食化は今後世界の多くの地域が直面する市場変化ですが、日本はこれらを既に経験し、対応してきています。

 こうした強みを活かせば、日本市場で育てられた製品を海外に売り込み、さらに日本向け製品を土台に現地市場の好みに応じて、製品開発を進め、提供することで海外市場、とりわけアジアで急増する新たな富裕層をターゲットにした市場を開拓することができます。輸出により、日本で製造されることの魅力が増せば、世界に向けて食品を送り出すだけでなく、日本のマザー工場やモデル店舗で培った技術を海外に展開することも可能になります。

自動化や働き方改革による労働生産性の向上

 人材確保が他の産業に増して深刻な食品産業にとって、効率的な生産は費用削減だけでなく、稼働率を維持し安定的に生産を続けるためにも待ったなしの課題です。働き方改革もこの観点から、積極的に進める必要があります。手の込んだ労働集約性の比較的高い生産工程が、必要な製品を効率的に生産することは、どの国も実現できていません。新たな技術の応用は、消費者の潜在的な需要をつかむ売り方の革新にも繋がります。電子商取引による製造販売など新たな手法を採用することで、製造業者が直接消費者の需要動向を把握し、製品開発や生産調整に活かすことも可能です。

 食品産業は、近年頻発する自然災害、経営者の高齢化に伴う廃業、不公正な取引、生産過程における細菌やカビ、異物などの混入など、さまざまな事業リスクにさらされています。需要があるのに生産を継続できなくては、出荷できません。ほかにない製品を作る技術を有していても、廃業しては活かすことができません。生産費用を削減しても、それに応じて価格も下がってしまえば利益は増えません。利益が増えなければ新たな製品開発や生産性向上のための投資も増やせません。製品の安全性に対する信頼が一度損なわれてしまえば、ブランド価値が毀損し、従前のような支持を顧客から取り付けるためには何倍もの努力が求められます。競争力強化の取り組みに加え、こうしたリスクを避け、つかんだ機会を逸しないための整備も欠かせません。

具体的な取り組み

 食品産業の戦略、つまり需要を引き出す新たな価値創造、海外市場の開拓、自動化や働き方改革による労働生産性の向上について、具体的に取り組むべき事項はどのようなことでしょうか。

需要を引き出す新たな価値創造

 付加価値の高い製品やサービスを消費者からの支持を得て提供できるようにするには、潜在化している新しい市場を見いだし、その魅力を消費者へ訴求することが必要となります。 

 食品産業の製品やサービスは、以前人気があったもの、海外で人気があったものが突然今になって日本で人気を獲得することもあり、技術や流行からの積み上げだけでは必ずしも魅力ある製品やサービスを生み出せません。すなわち、食品産業の流行は、不確実かつ不連続です。それが食品産業の難しいところでもあり、また挑みがいのあるところでもあります。  

 付加価値を高めるという意味で、どの程度の資金を使ってどの程度の価値を上げたかという価値の見える化を図り、独自に設定した評価指標に対する貢献度を算定し、人事の評価に反映させていく仕組みづくりも必要となります。

 新しい価値を創造するためには、多様で能力あふれる人材を確保することが不可欠です。専門性や経験が異なれば生活スタイルも異なってきます。様々な経験や専門性を有する人材を集め、能力を発揮できる環境を整備しなければなりません。

 食品の技術開発は、必ずしも売れる製品につながる訳ではありません。積み上げで新しいものを創り出す技術開発を不連続な食品産業の流行に合わせて進めることは困難です。潜在的な市場のニーズを見据えて高度な技術開発を進めれば、顧客から強い支持を得て、他社の追随を許さない製品を生み出すことも可能です。食品産業の企画や開発の担当者は、食品化学や栄養学などの知識を有した者が多いですが、技術開発力を高めるためには、そのほかの専門性を有する者を採用すること、産学も含め異業種とも交流してオープンな研究環境を整えることなどが求められます。

 2016年に日本政策金融公庫が実施した調理時間に対する考え方のアンケート調査によると、今より減らしたいが20~50歳代の女性では5割となっています。家族で食べるために、市販の弁当や総菜などの調理済み食品を購入する理由を聞いたアンケート調査によると、20~50歳代の女性の半数以上が調理する時間がないと回答しています。このことから、簡便性を追求した製品開発が望まれていることがうかがえます。

 新規製品でなくとも、日本の食品産業の強みとなる生産工程と品質をアピールする製品を従来のラインアップに加えることで、培ったブランドを土台にしつつ、企業としてのブランドを強化することも可能です。より高級な製品を加えることで、それに準じる製品の消費も喚起することにもなります。

 健康への寄与を訴える際には、信頼性のある情報発信が求められます。法律に基づき機能性を表示できる保健機能食品には、特定保健用食品(トクホ)や栄養機能食品、機能性表示食品があり、信頼性のある情報発信をこれらの表示制度を活用して行うことも有効です。

 食品の魅力は、包装や容器の性能向上により鮮度保持の期間や賞味期限を伸ばすことでも高められます。日本の包装技術は高水準であり、安全性や保存性を高める包装及び容器を用いることで、海外輸出による需要開拓が可能となります。

 新しい切り口にて、製品の魅力を訴えることで新しい市場を開拓することも可能です。消費者に対して、別の視点からの説明を加えることで同じ製品により高い価値を消費者が感じる手段となります。

 消費者に定着したロングセラーの派生製品を展開することは、従来の支持層から追加的な需要を喚起するとともに、従来商品のブランド価値をさらに高めることにつながります。全く新しい製品を開発するよりも、リスクは少なくなります。

海外市場の開拓

 食品産業において海外事業の強化に向けた積極姿勢が高まっています。拡大する海外市場においては、日本の食品の強みや独自性を訴求しつつ、現地の食文化に応じて需要開拓を図る必要があります。

 一方、海外市場の食品に対する規制を正確に把握すること、温度管理された物流網を構築することを食品メーカーが自ら行うことは困難です。日本政策金融公庫の調査で、今後海外展開を強化したいと回答した企業にその課題を聞いたところ、現地の法律や商習慣情報の不足をあげた企業が62.2%と最も多い状況でした。持続的な輸出に成功した事業者ほど輸出を自ら手がけることはなく、適切なパートナーと連携し、自らは製品開発や生産に専念できる状態を作り出しています。

 海外市場の開拓に向けたプロモーションは、海外で行わなければならない訳ではありません。訪日外国人旅行者の滞在中の消費だけでも相当な規模となりますが、旅行者が帰国した後に同じ食品を楽しみたいと思えば輸出の増加にもつながります。国内での販売は輸出ほどの負担やリスクはありません。まず、国内で外国人旅行者による嗜好を確認し、自らの製品を訴求することから始め、輸出の準備を進めることも可能です。

自動化や働き方改革による労働生産性の向上

 人材確保がますます困難となる中、特に中小企業や小規模企業においては、自動化やICT化、人材育成による効率的な作業の実現により生産性向上を図る取り組みが重要となります。

 食品産業において生産現場の労働力不足が強く認識される中、自動化によりこれを克服しようとする意識は高まっています。自動化に際し、ロボットなどの機械が食品製造の現場になかなか導入されなかったことには理由があります。形状が不安定な食品はロボットには扱いにくく、食品の製造ラインは流れが早いことから、一部だけ自動化してもライン全体でその成果が現れにくい状況です。実際のところ、大規模投資に対する投資効率の懸念が示されることが少なくありません。さらに高い安全性や衛生管理が求められます。さびることなく、細菌やカビに汚染されず、部品や潤滑油などが食品に混入せず、温度変化に強いといった要件を満たさない機械は、食品工場に導入することはできません。一方、包装後の箱詰めや梱包、出荷などロボットの導入にそれほどの障壁がない工程もあります。

 人材確保がますます困難になる中、IoTやビッグデータ、AIなどの技術を活用した省人化の取り組みの重要性も増しています。食品メーカーが需要予測の精度を向上させること、卸売業が在庫管理の精度を向上させること、卸売業が小売POS等により消費需要動向を正しく把握することなどで、食品ロスの削減にも期待されています。

 労働力不足の中で、雇用を引き寄せるためには働き方改革が不可欠との認識は、食品産業の間で広がっています。優れた技術や企画立案能力を有する人材をひき付けるためには、勤務時間の柔軟化、女性及び高齢者に配慮した職場環境の改善、ICT化、自動化を含めた設備投資を積極的に進めるなど、働く場としての魅力や生産性を高めることが必要です。

まとめ

 少子高齢化による人口減少社会において、どうすれば事業活動を継続できるのでしょうか。どのように需要を掘り起こせるのでしょうか。世界市場にどのような形で存在感を示せるでしょうか。

 食品産業が抱える課題は、日本の産業全体が抱える課題の縮図とも言えます。人口減少のペースに合わせて需要が減少すれば、日本の食品産業の規模は、2050年には現在の4分の3になってしまいます。そのような状況に陥らないための企業戦略が必要となります。

 その戦略は、需要を引き出す新たな価値創造と海外市場の開拓、自動化や働き方改革による労働生産性の向上です。需要を引き出す新たな価値創造とは、製品開発やマーケティングを通じた需要創造によって売上を増やすことです。国内市場における需要創造は、健康志向や高齢化など日本の経済社会の変化に応じて新たな製品を投入すること、従来の製品に新たな価値を見いだして提供することが考えられます。日本の食品産業は、新たな製品を次々と投入する製品開発力に溢れています。食品産業が、強みと機会を土台にして新しい需要、新しい消費を喚起すれば、日本経済全体にも貢献できる可能性があります。海外市場の開拓について、日本の食品産業はさまざまな食材や調理法といった独特な食文化に育まれた歴史や伝統を背景に他国にない製品を生み出してきました。また、世界で最も敏感で厳しい消費者に鍛えられてきています。さらに高齢者の増加や個食化は今後世界の多くの地域が直面する市場変化ですが、日本はこれらを既に経験し、対応してきています。こうした強みを活かすことで、日本市場で育てられた製品を海外に売り込み、さらに現地市場の好みに応じて、製品開発を進め、提供することで海外市場を開拓することができます。自動化や働き方改革による労働生産性の向上については、人材確保が他の産業に増して深刻な食品産業にとって、効率的な生産は費用削減だけでなく、稼働率を維持し安定的に生産を続けるためにも待ったなしの課題です。働き方改革もこの観点から、積極的に進める必要があります。

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