窒素固定は、窒素サイクルという反応系の一部です。多くの細胞成分、つまり、たんぱく質、アミノ酸、核酸、プリン、ピリミジン、アルカロイド、ビタミンなどは窒素を含みますが、その窒素原子は、窒素サイクルで流転しています。大気はこのサイクルでの窒素の貯蔵庫となります。窒素は、窒素固定反応でこの貯蔵庫から引き出され、生体成分となり、脱窒反応で大気に戻ります。
植物の成長には、アンモニアまたは硝酸イオンの形で窒素が必要です。アンモニアは、世界的規模で年間1億7,500万トン以上となる生物による窒素固定と年間約4,000万トンとされる窒素肥料で供給されます。
窒素固定とは、安定なN2分子を無機窒素化合物のどれかに変えることで、強固に3重結合している2個のN原子を切り離すことが特徴です。この結合が切れにくいことは、ドイツで開発された窒素固定法であるHaber法反応条件(450℃・200気圧)からも明らかです。
化学的窒素固定と異なり、生物の窒素固定は、常温常圧で酵素により行われます。窒素を固定する微生物は2種に大別されます。ひとつは、ほかの生物に依存せず生活できる非共生細菌で、好気性土壌細菌(Azotobactor)、嫌気性土壌細菌(Clostridium)、光合成細菌(Rhodospirillum rubrum)、青色細菌(Anabaena)などです。もうひとつは、高等植物のクローバー、アルファルファ(ムラサキウマゴヤシ)、大豆などマメ科植物と共生する根粒菌(Rhizobium)です。共生生物による窒素固定で大切なのは、マメ科植物の根粒です。特定の根粒菌が特定のマメ科植物に共生すると根粒ができ、窒素固定が始まります。
窒素固定生物は、NH3からアミノ酸、たんぱく質、核酸、色素類などの窒素化合物をつくります。固定した窒素が余れば、土壌に排出します。これらは窒素固定ができない土壌細菌や高等植物に利用されます。
自然界にはいろいろな酸化状態の無機硫黄化合物が存在します。有機化合物から離れた硫黄原子は、土壌細菌により硫酸イオンに酸化され、有機化合物に入るときはH2Sに還元されます。硫酸イオンは動植物のステロイド硫酸、フェノール硫酸、コリン硫酸、多糖類硫酸エステル(コンドロイチン硫酸など)などになります。硫酸イオンからシステインになるには、まずS²⁻のレベルに還元されます。これができるのは、高等植物と微生物です。このシステインが全生物界の有機硫黄源となります。
窒素サイクルの概要
窒素固定は、窒素サイクルという反応系の一部です。多くの細胞成分、つまり、たんぱく質、アミノ酸、核酸、プリン、ピリミジン、アルカロイド、ビタミンなどは窒素を含みますが、その窒素原子は、窒素サイクルで流転しています。
大気はこのサイクルでの窒素の貯蔵庫となります。窒素は、窒素固定反応でこの貯蔵庫から引き出され、生体成分となり、脱窒反応で大気に戻ります。
窒素サイクルの中間体には、数種の無機窒素化合物、多くの有機化合物があります。無機物にはN2ガス、NH3、硝酸イオン、亜硝酸イオンなどで、窒素は種々の酸化状態をとります。自然界で窒素は、最も酸化されたNO3⁻、最も還元されたNH3の両方とも存在します。
植物の成長には、アンモニアまたは硝酸イオンの形で窒素が必要です。アンモニアは、世界的規模で年間1億7,500万トン以上となる生物による窒素固定と年間約4,000万トンとされる窒素肥料で供給されます。そのほかに硝酸イオンとして鉱物の硝石と雷雨から約4,000万トンが供給されます。
N2+O2→放電→2NO+O2→2NO2→雨→HNO2+HNO3
生物によらない窒素固定
窒素固定とは、安定なN2分子を無機窒素化合物のどれかに変えることで、強固に3重結合している2個のN原子を切り離すことが特徴です。
この結合が切れにくいことは、ドイツで開発された窒素固定法であるHaber法反応条件からも明らかです。第1次大戦中、イギリス海軍の海上封鎖作戦で、チリの硝石を入手できなくなったドイツは、工業用の硝酸を合成するため、N2とH2を高温高圧化で反応させて、NH3をつくりました。今日でもこのHaber法は、N2を固定して化学肥料をつくるために使われています。
N2+3H2→450℃・200気圧→2NH3
Δ=−8kcal/mol N2
反応は発エルゴン的ですが、自然には進行せず、高温高圧が必要です。
生物による窒素固定
化学的窒素固定と異なり、生物の窒素固定は、常温常圧で酵素により行われます。
N2+3H2→25℃・1気圧・酵素→2NH3
窒素を固定する微生物は2種に大別されます。ひとつは、ほかの生物に依存せず生活できる非共生細菌で、好気性土壌細菌(Azotobactor)、嫌気性土壌細菌(Clostridium)、光合成細菌(Rhodospirillum rubrum)、青色細菌(Anabaena)などです。もうひとつは、高等植物のクローバー、アルファルファ(ムラサキウマゴヤシ)、大豆などマメ科植物と共生する根粒菌(Rhizobium)です。マメ科植物以外に灌木、樹木など190種の植物も共生で窒素を固定します。アメリカタイサンボク、クロウメモドキ属の植物、ハンノキなどがその例です。高山の湖の肥沃度は、そこに流入する小川のほとりに茂るカワラハンノキに左右されます。
共生生物による窒素固定で大切なのは、マメ科植物の根粒です。共生のないマメ単独では、窒素固定は起こらず、根粒菌も単独では有機窒素と酸素を限定して与えたときしか窒素固定をしません。しかし、特定の根粒菌が特定のマメ科植物に共生すると根粒ができ、窒素固定が始まります。
共生生物による窒素固定
窒素固定の機構は、主として嫌気的なClostridium pasteurianumや好気的なAzotobactor vinelandiiなど非共生細菌で研究されました。しかし、マメ科植物と根粒菌による共生窒素固定の方が、生物的窒素固定に占める割合が大きいです。
根粒菌は、本来グラム陰性の非共生細菌ですが、クローバー、エンドウ、マメなど根毛に付着するといろいろな変化の末、腫瘍のような根粒を形成します。根粒には、運動性、生殖性を失って肥大化した根粒菌がバクテロイドとなって入っています。このバクテロイドは、完全なニトロゲナーゼ系を持っています。ニトロゲナーゼ系がN2をNH3に変えます。
N2+6H⁺+6e⁻+12ATP+12H2O→2NH3+12ADP+12Pi
ΔG=−136kcal/mol N2
ニトロゲナーゼ系は特異性が低く、ATPの加水分解と共役してプロトン(H⁺)をH2に還元します。これを還元的ATPアーゼ活性と言います。
2H⁺+2e⁻+4ATP+4H2O→H2+4ADP+4Pi
こうしてニトロゲナーゼ系では、N2還元中でも還元力とATPの30%はプロトンのH2への還元に費やされます。
根粒菌が付着した植物細胞には、レグヘモグロビンが存在します。これはヘモグロビンのようにO2と可逆的に結合する色素で、バクテロイドが酸化的リン酸化でATPをつくるのに必要なO2を供給します。
窒素固定菌のニトロゲナーゼ系は、酵素生合成などで制御されます。アンモニウム塩があると窒素固定はすぐに止まりますが、アンモニア自身はニトロゲナーゼ系を阻害しません。過剰のアンモニアがあるとニトロゲナーゼ系の酵素が合成されなくなり、アンモニアが使われて濃度が下がると、再びニトロゲナーゼ系の酵素の合成が始まります。
窒素固定生物は、NH3からアミノ酸、たんぱく質、核酸、色素類などの窒素化合物をつくります。固定した窒素が余れば、土壌に排出します。マメ科植物やカワラハンノキなどは、根のまわりにNH3やアミノ酸を排出します。青色細菌は、NH3、アミノ酸、ペプチドを排出します。これらは窒素固定ができない土壌細菌や高等植物に利用されます。高等植物で余ったNH3は、アスパラギンやグルタミンとして貯蔵されます。窒素固定細菌が死ぬとたんぱく質は加水分解され、アミノ酸となります。土壌の肥沃度は、窒素固定系から直接くるNH3、アミノ酸やたんぱく質から生じるNH3の量によって決まります。
硫黄サイクル
自然界にはいろいろな酸化状態の無機硫黄化合物が存在します。硫酸イオン、亜硫酸イオン、チオ硫酸イオン、元素状硫黄、硫化物イオンなど酸化数は、+6価から−2価まであります。
有機化合物から離れた硫黄原子は、土壌細菌により硫酸イオンに酸化され、有機化合物に入るときはH2Sに還元されます。
硫酸イオンは動植物のステロイド硫酸、フェノール硫酸、コリン硫酸、多糖類硫酸エステル(コンドロイチン硫酸など)などになります。硫酸はATPと反応することで活性化され、アデノシン5’ホスホ硫酸になり、さらに3’ホスホアデノシン5’ホスホ硫酸になります。
硫酸イオンからシステインになるには、まずS²⁻のレベルに還元されます。これができるのは、高等植物と微生物です。動物が利用する有機硫黄化合物が、すべて高等植物などが同化したものです。硫酸イオンの硫黄の−2価への還元はクロロプラストで行われ、ここでシステインなどのアミノ酸もつくられます。このシステインが全生物界の有機硫黄源となります。
まとめ
窒素固定は、窒素サイクルという反応系の一部です。多くの細胞成分、つまり、たんぱく質、アミノ酸、核酸、プリン、ピリミジン、アルカロイド、ビタミンなどは窒素を含みますが、その窒素原子は、窒素サイクルで流転しています。大気はこのサイクルでの窒素の貯蔵庫となります。窒素は、窒素固定反応でこの貯蔵庫から引き出され、生体成分となり、脱窒反応で大気に戻ります。
植物の成長には、アンモニアまたは硝酸イオンの形で窒素が必要です。アンモニアは、世界的規模で年間1億7,500万トン以上となる生物による窒素固定と年間約4,000万トンとされる窒素肥料で供給されます。
窒素固定とは、安定なN2分子を無機窒素化合物のどれかに変えることで、強固に3重結合している2個のN原子を切り離すことが特徴です。この結合が切れにくいことは、ドイツで開発された窒素固定法であるHaber法反応条件(450℃・200気圧)からも明らかです。
化学的窒素固定と異なり、生物の窒素固定は、常温常圧で酵素により行われます。窒素を固定する微生物は2種に大別されます。ひとつは、ほかの生物に依存せず生活できる非共生細菌で、好気性土壌細菌(Azotobactor)、嫌気性土壌細菌(Clostridium)、光合成細菌(Rhodospirillum rubrum)、青色細菌(Anabaena)などです。もうひとつは、高等植物のクローバー、アルファルファ(ムラサキウマゴヤシ)、大豆などマメ科植物と共生する根粒菌(Rhizobium)です。共生生物による窒素固定で大切なのは、マメ科植物の根粒です。特定の根粒菌が特定のマメ科植物に共生すると根粒ができ、窒素固定が始まります。
窒素固定生物は、NH3からアミノ酸、たんぱく質、核酸、色素類などの窒素化合物をつくります。固定した窒素が余れば、土壌に排出します。これらは窒素固定ができない土壌細菌や高等植物に利用されます。
自然界にはいろいろな酸化状態の無機硫黄化合物が存在します。有機化合物から離れた硫黄原子は、土壌細菌により硫酸イオンに酸化され、有機化合物に入るときはH2Sに還元されます。硫酸イオンは動植物のステロイド硫酸、フェノール硫酸、コリン硫酸、多糖類硫酸エステル(コンドロイチン硫酸など)などになります。硫酸イオンからシステインになるには、まずS²⁻のレベルに還元されます。これができるのは、高等植物と微生物です。このシステインが全生物界の有機硫黄源となります。