【周囲とのコミュニケーション】植物由来の香気成分

トピックス
この記事は約4分で読めます。

 植物由来の香気成分は、植物の生存において重要な役割を担っています。良く知っている花の香り以外に昆虫に食べられることでも植物のにおいは放出されます。これらのにおいは、昆虫の天敵をひきつけ、周囲の植物に危険を知らせる警報としての役割があります。このように動けない植物は、においを駆使することで周囲の生物とコミュニケーションを図っています。

 植物の香気成分であるテルペン類は、抗虫性、抗炎症、抗ストレス作用など多岐にわたる薬理効果が備わっていることから、世界中の研究者に注目されています。

自然界における植物のにおいの役割

 植物由来香の香気成分の最大の役割は、ほかの生物とのコミュニケーション並びに外敵からの防衛にあります。花のにおいを介した植物と昆虫などのコミュニケーションはよく知られていますが、植物が放出するにおいは花だけに限ったものではありません。ミントなどは葉の表面のトリコームと呼ばれる毛の部分に大量のテルペン類を蓄積し、これらの香気成分は病害虫の予防、忌避効果を発揮します。

 さらに植物は、昆虫によって食べられると大気中ににおいを放出することで、昆虫の天敵を誘引することができます。植物から放出されるにおいの成分は、品種や食べた昆虫の違いによっても異なりますが、この植物を食べた昆虫の天敵はこれらの特有のにおい成分を手がかりとして、特異的に見つけ出します。ハダニの天敵であるカブリダニは、ハダニが食べたマメの葉のにおい成分を好み、ほかの昆虫が食べた場合に放出されるマメの葉のにおい成分には応答しません。これらの特有なにおい成分の生産には、昆虫が分泌する成分が深くかかわっていると考えられています。

 一方、昆虫に食べられた植物から放出されるにおいを感知した周囲の植物は、食べられる前の状態にもかかわらず、防御応答を誘導することができます。これは、植物間コミュニケーションと言われています。においを受容した植物は、防御遺伝子などが活動をはじめます。

植物の香気成分の薬理効果

 テルペンを代表とする成分には、機能性に優れた化合物が数多く、防虫剤、香料、医薬品などとして、さまざまな用途で用いられています。マラリアの治療薬であるアルテミシニンは、クソニンジンから単離されたテルペンで、防虫剤や防腐剤に用いられている樟脳(カンファー)は、クスノキに含まれるテルペンです。

 昨今では、植物の精油を用いたアロマテラピーが、リラックス効果やストレス解消を目的として世間一般に広く普及しています。レモンの香りに含まれるリモネン、ミントの香りに含まれるリナロールなどのテルペンには、リラックス効果のほかに抗炎症作用があり、ホップの香りであるカリオフィレンには、抗うつ作用があります。

 シソは、特有の香りと防腐、殺菌作用などを持つことから、和食に欠かせない食材です。シソには、整腸作用、発汗解熱作用、抗炎症作用などの効果も知られており、古くから漢方にも用いられてきました。シソの香り成分は、ペリルアルデヒド、ペリルアルコール、リモネンの3種のテルペンであり、なかでもペリルアルデヒドは生葉におけるシソの香気成分の主要成分です。

 ジンチョウゲ科の樹高の高い常緑樹の樹皮が、菌に感染し傷がつくと、それを治すために植物自身が樹液を出します。この樹液が固まって樹脂となり、長い時間をかけ菌などの働きによって樹脂の成分が変質し、特有の香りを放つようになったものを沈香(じんこう)といいます。沈香という名前は、普通の木よりも比重が重いため、水に沈むことに由来しています。沈香の香気成分は、主にテルペンとクロモンであるとされ、特に加熱した際に発生する芳香成分はクロモンとされています。沈香は、強壮、鎮静などの効果のある生薬でもあります。沈香ができるまでに50年、高品質の沈香になるにはさらに100~150年かかると言われています。沈香ができるメカニズムには現在でも謎が多く、また偶然性に左右される面が大きいことから、人工的に生成することは極めて難しく、とても貴重なものとして扱われています。現在では沈香の乱獲を防ぐため、ワシントン条約の附属書Ⅱ(必ずしも絶滅のおそれはないが取引を厳重に規制しなければ絶滅のおそれのある種となりうるもの)に指定されています。

 白檀はインド原産の樹木で、ほかの木に半寄生して生きるためこの木だけで育てることは不可能です。白檀の精油成分についての研究は、古くから膨大な研究がなされており、主成分はテルペンアルコールであることが報告されています。主な効能として、ストレス緩和、抗炎症、殺菌、消毒作用などがあります。

まとめ

 植物由来の香気成分は、植物の生存において重要な役割を担っています。良く知っている花の香り以外に昆虫に食べられることでも植物のにおいは放出されます。これらのにおいは、昆虫の天敵をひきつけ、周囲の植物に危険を知らせる警報としての役割があります。このように動けない植物は、においを駆使することで周囲の生物とコミュニケーションを図っています。

 植物の香気成分であるテルペン類は、抗虫性、抗炎症、抗ストレス作用など多岐にわたる薬理効果が備わっていることから、世界中の研究者に注目されています。

タイトルとURLをコピーしました