【奇跡】味覚を変化させる物質

食品の成分
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味覚と味覚を変化させる物質

 味覚は、主に舌の味蕾に含まれる味細胞が味を呈する物質を検出して、その情報を脳の大脳皮質の味覚野に送ることによって生じます。味覚は甘味、酸味、塩味、うま味、苦味の基本5味に分類でき、甘味やうま味、薄い塩味を美味しいと感じ、一方で苦味や酸味、濃い塩味をあまり好まない傾向にあります。

 ある種の物質は、主に舌の甘味受容体に作用し、甘味受容体の機能を変えてしまう性質を持っています。ミラクリンやクルクリンなどは、酸っぱいものや水を甘く感じさせる性質を持っています。一方、ギムネマ酸やジジフィンなどは、甘味受容体に作用し、甘味を選択的に抑制します。このように甘味を誘導したり、逆に甘味だけを感じなくする物質は、それぞれ甘味誘導物質、甘味制御物質と呼ばれています。このような物質は、その特異な作用を明らかにすることにより、甘味の仕組みの解明に有用な情報を提供することができます。

甘味誘導物質と甘味制御物質

甘味誘導物質ミラクリン

 西アフリカ原産のアカテツ科の樹木はオリーブ大の赤い実をつけます。実の中には大きな種子があり、そのまわりを果肉が取り囲んでいます。成熟した赤い実の果肉を口に入れてから酸っぱいものを味わうと、強い甘味を感じます。酸っぱいものなら酢酸でもクエン酸でも甘くなり、レモンを味わうと甘いオレンジのような味になります。

 このように不思議な作用を持っているので、この実はミラクルフルーツと呼ばれています。アフリカの先住民族は、何世紀にもわたって酸っぱいヤシ酒や発酵したパンに甘味をつけるためにこの実を使用してきました。

 1965年以降ミラクルフルーツに含まれている活性成分ミラクリンの研究が行われ、構造がつきとめられました。ミラクリンは糖たんぱく質で、191個のアミノ酸からなる2つの同種のポリペプチドがジスルフィド結合で結びついた2量体として存在します。単量体ミラクリンはそのなかに7個のシステインが存在し、そのうちの6個はポリペプチド内で3組のジスルフィド結合をしています。糖含量は13.9%で、単糖としてN-アセチルグルコサミンやマンノース、ガラクトース、キシロースを含んでいます。

 ちなみにミラクルフルーツは、インターネットで簡単に手に入れることができます。

甘味誘導物質クルクリン

 マレーシア地方に野生しているキンバイザサ科の植物クルクリゴは、根元にラッキョウのような形をした白い実をつけます。この実を口に含んだ後、水を飲むと甘く感じ、紅茶はもちろん砂糖なしでも甘くなります。また、ミラクリンと同様に、酸っぱいものを味わうと強い甘味を感じます。

 昔から現地では、この実を酸っぱいものに甘味をつける目的で用いられてきました。この実の成分は、クルクリゴの植物名にちなんで、クルクリンと命名されました。

 クルクリンは、分子量12,000のポリペプチドがジスルフィド結合で結びついた2量体です。単量体のクルクリンは114個のアミノ酸から構成されており、その中に4個のシステインが存在します。そのうち2個でペプチド内ジスルフィド結合をつくり、残る2個のシステインで2組にペプチド間ジスルフィド結合を形成しています。

 クルクリンはそれ自身甘味を有し、またミラクリンと同様に酸っぱいものを甘くする作用がありますが、両たんぱく質のアミノ酸配列には全く相同性がみられません。

甘味制御物質ギムネマ酸

 ガガイモ科に属するつる性多年草の植物ギムネマ・シルベスタは、インドから中国南部にかけて自生しています。この葉を噛んだ後に砂糖をなめると、あたかも砂をなめているように甘味が感じられなくなります。このようなギムネマの葉に含まれている特異な成分はギムネマ酸と呼ばれています。

 ギムネマ酸は食品と一緒に摂取すると小腸からの糖質の吸収を抑制し、血糖値の低下を促します。さらに血糖値を下げるホルモンであるインスリンの分泌を抑制します。

 ギムネマ酸は、ギムネマ茶やキャンディー、健康食品などとして、市場に出回っています。

甘味制御物質ジジフィン

 クロウメモドキ科のナツメの葉には、ジジフィンと呼ばれる甘味抑制物質が含まれています。ジジフィンは、ギムネマ酸より特異性が高く、甘味以外の物質にはまったく抑制作用を示しませんが、甘味を呈す砂糖やアスパルテーム、グリシンなどの甘味は抑制します。

まとめ

 ある種の物質は、主に舌の甘味受容体に作用し、甘味受容体の機能を変えてしまう性質を持っています。ミラクリンやクルクリンなどは、酸っぱいものや水を甘く感じさせる性質を持っています。一方、ギムネマ酸やジジフィンなどは、甘味受容体に作用し、甘味を選択的に抑制します。このように甘味を誘導したり、逆に甘味だけを感じなくする物質は、それぞれ甘味誘導物質、甘味制御物質と呼ばれています。

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