ミネラルとは
体を構成する元素は、酸素、炭素、水素、窒素の4元素で全体の96%を占めていますが、それ以外の元素を総称してミネラル(無機質)と呼びます。ミネラルは人体の4%を占めており、体の構成成分や生理機能を調整する役割を担っています。
健康を維持するために欠かせない16種類を必須ミネラルといいます。必須ミネラルは、体に比較的多く存在する多量ミネラルと、量が少ない微量ミネラルに分けられます。
微量ミネラルは、鉄、亜鉛、銅、マンガン、ヨウ素、セレン、クロム、モリブデン、コバルトの9種類です。多量ミネラルは、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、硫黄、塩素の7種類です。
ミネラルは体内で作ることができないため、食品から摂取することになります。不足した場合は、欠乏症やさまざまな不調が発生しますが、摂りすぎた場合でも過剰症や中毒を起こすものがあります。厚生労働省では、必須ミネラル16種類のうち硫黄、塩素、コバルトを除く13種類について、1日の食事摂取基準を定めています。
ミネラルの働きのひとつは、骨や歯を形成することです。カルシウムやリン、マグネシウムは骨や歯など硬い組織の構成成分となります。ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リンは体液に分布し、pHや浸透圧の調節に作用します。さらに多くのミネラルが酵素の活性中心の成分や各種ホルモンの分泌調節などの生理機能に関与しています。
食事摂取基準では、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リンを多量ミネラル、鉄、亜鉛、銅、マンガン、ヨウ素、セレン、クロム、モリブデンを微量ミネラルとして、基準を設定しています。 ミネラルは、互いに吸収や働きに影響をあたえ合うことがあるため、バランスよく摂ることが要求されます。
微量ミネラルの概要
鉄(Fe)
食品中の鉄は、たんぱく質に結合したヘム鉄と無機鉄である非ヘム鉄に分けられます。 鉄は、ヘモグロビンや各種酵素を構成し、その欠乏は貧血や運動機能、認知機能等の低下を招きます。妊娠や授乳中の需要増大が、必要量に及ぼす影響は大きくなります。食品から摂取された鉄は、十二指腸から空腸上部において吸収されます。ヘム鉄は、腸管上皮細胞に吸収され、酵素反応により血清鉄として全身に運ばれます。多くの血清鉄は、骨髄において赤血球の産生に利用されます。約 120 日の寿命を終えた赤血球に含まれる鉄は、再度ヘモグロビン合成に利用されます。体内の鉄が減少すると吸収率 は高まりますが、過剰な鉄は消化管に排泄されます。
平成 28 年国民健康栄養調査における日本人成人(18 歳以上)の鉄摂取量は、 8.1±2.9 mg/日(男性)、7.3±2.7 mg/日(女性)であり、その 70% 以上は植物性食品に由来します。通常の食生活で過剰摂取が生じる可能性はありません。しかし、鉄の過剰摂取によって体内に蓄積した鉄は、酸化促進剤として作用し、組織や器官に炎症 をもたらし、肝臓がんや心血管系疾患のリスクを高めるという報告があります。そのため、貧血の治療や予防が必要でない限り、鉄の 過剰摂取については十分に注意する必要があります。
亜鉛(Zn)
亜鉛は、体内に約 2,000 mg 存在し、主に骨格筋、骨、皮膚、肝臓、脳、腎臓などに分布します。 亜鉛の生理機能は、たんぱく質との結合によって発揮され、触媒作用と構造の維持作用に大別されます。亜鉛欠乏の症状は、皮膚炎や味覚障害、慢性下痢、免疫機能障害、成長遅延、性腺発育障害などです。腸管吸収率は約 30%とされ、亜鉛摂取量に伴って変動し、亜鉛の尿中排泄量は少ないです。
平成 28 年国民健康栄養調査における日本人成人(18 歳以上)の亜鉛摂取量は、 8.8±2.8 mg/日(男性)、7.3±2.2 mg/日(女性)であり、通常の食品において過剰摂取 が生じることはありません。
銅(Cu)
銅は、成人の体内に約 100 mg 存在し、約 65% は筋肉や骨、約 10% は肝臓中に分布します。 銅は、約10種類の酵素の活性中心に存在し、エネルギー生成や鉄代謝、神経伝達物質の産生、活性酸素除去などに関与しています。摂取された銅の吸収は、小腸粘膜上皮細胞から取り込まれます。体内の銅は、吸収量と排泄量の調節によって維持されています。
マンガン(Mn)
マンガンは、成人の体内に 10〜20 mg 存在し、25% は骨に、残りは生体内組織及び臓器にほぼ一様に分布しています。マンガンは、さまざまな酵素の構成成分です。
成人のマンガン摂取目安量は、男性 4.0 mg/日、女性 3.5 mg/日となります。マンガンは、穀物や豆類などの植物性食品に豊富に含まれています。
ヨウ素( I )
体内のヨウ素の 70〜80%は甲状腺に存在し、甲状腺ホルモンを構成しています。ヨウ素を含む甲状腺 ホルモンは、生殖や成長、発達等の生理的プロセスを制御し、エネルギー代謝を亢進させます。ま た、甲状腺ホルモンは、胎児の脳や末梢組織、骨格などの発達と成長を促します。慢性的なヨウ素欠乏 は、甲状腺刺激ホルモンの分泌亢進、甲状腺の異常肥大などを起こし、甲状腺機能を低下させます。妊娠中のヨウ素欠乏は、死産や流産、胎児の先天異常、胎児甲状腺機能低下を招きます。
食卓塩に添加されたヨウ素は、ヨウ化物の形態で消化管によりほぼ完全に吸収され、昆布製品などの食品に含まれるヨウ素の吸収率はヨウ化物よりも低いと推定されています。吸収されたヨウ素は、甲状腺 に取り込まれます。甲状腺に取り込まれたヨウ素は酵素による反応を経て、甲状腺ホルモンとなります。甲状腺ホルモンから遊離したヨウ素は、 90% 以上が 尿中に排泄されます。成人男女共通の推奨量は、130 µg/日です。
セレン(Se)
セレンは、セレンの結合したたんぱく質として生理機能を発現し、抗酸化システムや甲状腺ホルモン代謝に関与しています。食品中のセレンの多くは、セレノメチオニン、セレノシステインなどのセレンを含むアミノ酸の形態 で存在します。遊離の含セレンアミノ酸は約 90%が吸収されることが示されており、食事中のセレン も同程度に吸収されると考えられる ています。
クロム(Cr)
食品に含まれるのは3価クロムとなります。クロムは、インスリンの効果を増進してブドウ糖の代謝に関与します。成人及び高齢者の目安量は男女とも 10 µg/日です。クロムは多くの食品に含まれていて、必要な量も微量であるため、通常の食事で欠乏症がみられるほど不足することはまずありません。
モリブデン(Mo)
モリブデンは、酵素の構成成分となり、糖質や脂質の代謝を助ける役割を担っています。必要となるモリブデンは微量であり、通常の食事から十分摂取することができるため、モリブデンの欠乏症はほとんど知られていません。しかしながら、可能性のある欠乏症として貧血、疲労、尿酸代謝障害、不妊などの症状があげられます。
コバルト(Co)
コバルトは、ビタミンB 群の一種であるビタミンB12を構成する成分として存在しています。コバルトが不足すると貧血や食欲不振、消化不良、手足のしびれなどの症状が現れることがあります。
まとめ
微量ミネラルは、鉄、亜鉛、銅、マンガン、ヨウ素、セレン、クロム、モリブデン、コバルトの9種類です。
微量ミネラルは体内で作ることができないため、食品から摂取することになります。
微量ミネラルは、それぞれ働きが異なり、体の機能を正常に働かせる作用があります。不足した場合は、欠乏症やさまざまな不調が発生しますが、摂りすぎた場合でも過剰症や中毒を起こすものがあります。