わさび序論
加工食品において、わさびはさまざまな製品に使用されています。身近なところでは、スーパーで売られているチューブ入りのわさびやスナック、ドレッシング、ソースなどです。このわさびを求めて、著名な産地となる日本の静岡県や長野県、北海道をはじめ、中国の雲南省や山東省、遼寧省など世界各地から調達を行います。
輸入しているわさびの多くは、中国産の西洋わさび、別名ホースラディッシュといい年間8,000トン程度で推移しているようです。統計によるとわさび消費量の80%以上が西洋わさびとなり、普段食べているわさびは、その多くが西洋わさびを使用しております。西洋わさびは、日本古来の本わさびと比べて辛さが1.5倍ほどあり、ツンとした強い辛さが引き立つことで、ローストビーフなどの肉類との相性が抜群です。チューブ入りわさびの多くは、国産本わさびをうたっていない場合、おそらく中国産の西洋わさびです。もちろん、中国産に関わらず、品質検査や残留農薬検査を実施し、合格したものが使用されます。
西洋わさびはとてもたくましく、栽培しやすい植物です。そのため、価格もリーズナブルです。ご家庭の庭先で育て、採りたてを食べることも可能です。一方、本わさびは、水がきれいで水温は年間を通して10~15℃、直射日光を遮る日陰があるといった条件が揃わないと育たないとてもデリケートな植物です。
わさびの辛さの素となるシニグリンという成分は、わさびのミロシナーゼという酵素によって分解され、アリルイソチオシアネートという辛み成分になります。このシニグリンとミロシナーゼは同じわさびの中でも別々に存在するため、細かくすりおろして混ぜ合わせることが必要です。アリルイソチオシアネートは、ワサビ、カラシ、大根、高菜などアブラナ科の野菜の辛味成分で、からし油とも呼ばれます。
わさびがシニグリンを有するのは、虫や細菌から身を守るためです。シニグリンは多くの昆虫に毒性を示すので、大抵の虫は寄り付きません。また、アリルイソチオシアネートは抗菌効果があるので、傷口から感染する細菌から身を守っています。しかし、人間がこんなにアリルイソチオシアネートを好むとは、ワサビとしても意外だったかもしれません。
わさびの種類
・本わさび
本わさびは日本原産で、古くから渓流に自生していました。本わさびは、主に渓流に人工的に築田したわさび田で栽培されます。収穫には2年~3年を要します。
・西洋わさび
西洋わさびは東ヨーロッパが 原産地とされ、主に中国や日本の北海道で栽培されています。粉わさびの主原料は西洋わさびとなります。
わさび成分の保持方法
わさびの辛さの成分であるアリルイソチオシアネートは、硫黄原子を含む有機化合物で、極めて揮発性が高いため、時間が経つと失われてしまいます。
加工食品では、いかにこのような成分を製品中に閉じ込め、喫食時に特長的な風味を提供するかが至上命題です。この問題を解決する成分が、サイクロデキストリンという環状の構造をもつオリゴ糖です。この環状構造の内部にアリルイソチオシアネートを閉じ込め、揮発を防ぎます。そうすることで、この成分を保持し、食事の時に口に入れると豊かな風味が広がることになります。チューブ入りわさびの原材料表示をみると、サイクロデキストリンという表示が散見されます。なお、サイクロデキストリンは包接化合物と呼ばれ、様々な化合物を取り込むことが可能です。
わさびの効果
わさびが、以前よりお寿司やお刺身に添えられたのは、消臭効果や抗菌効果のためです。また、この他にも抗酸化作用、肝機能の向上などに効果が期待されています。
・消臭効果
わさび特有のアリルイソチオシアネートによる辛さは、魚と一緒に食べると生臭さを消すことができます。
・抗菌効果
わさびのアリルイソチオシアネートは抗菌効果があります。特に揮発した状態での抗菌効果が高く、食中毒を引き起こす菌の増殖を抑制します。 わさびの持つ抗菌作用は、弁当などに用いる抗菌シートとして実用化されています。
まとめ
わさびは、根茎をおろしたときの強い刺激性のある香りが特長で、お寿司やお刺身、おそばなどに添えて食されます。
わさびはもともと山深い渓流に自生していましたが、数百年前から農産物として栽培されています。
わさびの根茎をすりおろすと、アリルイソチオシアネートという成分を得ることができます。わさびをすりおろしたときに鼻がツンとする独特な辛さがあるのは、アリルイソチオシアネートという成分のためです。この成分には、消臭効果や抗菌効果、抗酸化作用があることがわかってきました。わさびを日々の食生活に取り入れることで、健康に好ましい効果があるといえます。
今やお寿司が世界的なメニューとなって、わさびの知名度も増し、和食だけでなく、ソースやドレッシングなどにも使われます。
わさび独特の辛さとツンとする爽快な風味は、和食の枠を越え、加工食品を含め、さらに多くの製品に使われる可能性を秘めています。